炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
 頑なに拒む娘を見て、エレノアはふうとため息をついた。

「クレアの偉業は間違っていない。使う者が愚かだっただけ」
「それでも罪は罪。あんな物、作らなければ……」

 クレアは優秀な魔女だった。
 天才だった彼女は研究を重ね、魔力を溜めたり、増幅させることができる『魔鉱石』を作りだした。

 可能性を秘めた魔鉱石に目をつけたのが、グレシャー帝国の王弟だった。しかし、魔鉱石は生成が難しく、クレアしか作れない。見よう見まねの不完全な偽物の魔鉱石ばかりが量産され、戦争に悪用された。

 クレアは、偽物の魔鉱石を燃やすために炎の鳥を大地に解き放ち、両国を炎で染めた。それを雪と氷を操り、一瞬で鎮めたのが幼いころのリアム皇子だ。

 前世を思うと、苦しくて息のしかたを忘れる。目を瞑り俯いていると、エレノアがそっと抱きしめてくれた。

「過去を悔いているのはあなただけじゃない。リアム陛下の苦しみを誰よりも理解できるのは、ミーシャ、あなたよ」
「……私が傍にいれば、余計に苦しめるだけです」

 エレノアが励ましてくれる気持ちは嬉しかったが、自分にはリアムの傍にいる資格がない。

「だから、この話は、なかったことで!」 

 彼女から離れ、出口へ向かう。

「待ちなさい」

 炎の鳥がミーシャの行く手を塞ぐ。振り返るとエレノアが眉尻をさげながらほほえんでいた。

「明日はクレアの命日です。外に行くならついでに、彼女の碑に花を飾っておいて」
「……自分の墓に花を手向けろと?」

 苦々しい顔を向けたが、エレノアは表情をくずさず頷いた。

「当日は行きづらいでしょう? 花飾りは盛大によろしく頼むわね」

 ミーシャは眉根を寄せた。逡巡してから「わかったわ」と答え、今度こそ彼女に背を向ける。外へと繋がるドアを勢いよく開けた。
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