炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*

陛下の部屋

 部屋まで送ってくれたリアムは、中に入るとまっすぐ暖炉の前に向かった。
 ミーシャを長椅子(ソファー)に座らせると、彼は無表情のまま上着を脱ぎ、装飾品を外すと詰めていた襟のボタンを外した。そのようすを呆然と眺める。
 
「……陛下。今日はもうお疲れですよね? 治療方法ついてのお話は、また日を改めましょう。お休みになられてはいかがです?」

 今から話をしていては夜更けになる。身体に障ると思い伝えたが、リアムは「冷えただろう。温まったほうがいい」と言いながら、自ら暖炉の前に座り、薪を焚べはじめた。

「陛下? あのっ、聞いています?」
「聞いているよ。休めだろ」
「そうです」
「令嬢も疲れただろう。座ってろ」
「私は大丈夫です。熱いくらいですから」
「……そうだった。俺がきみの身体、冷ましてあげようか?」

 頭にぱっと浮かんだのは、リアムに抱きしめられる自分だった。冷めるどころか身体から火が出そうだ。

「けっこうです!」

 ミーシャは彼の横に座った。火かき棒を手に取って、暖炉の中へ入れる。

「陛下、魔力を使ったので、おつらいのでは? 火を(おこ)したあと、炎の鳥を呼び寄せますね」

 からかわれている場合じゃない。魔力の消費で凍化病を発症したのかもしれない。病が進行しないように、治療するのが先だ。

「お身体を温められましたら、お部屋にお戻りくださいね」
「俺の部屋はここだ」

 ミーシャは火かき棒を持ったまま固まった。首だけを横に向けて、「はい?」と聞き返す。

「……申しわけございません。今、ここが陛下の部屋と聞き間違えたようです。もう一度、なんとおっしゃったんですか?」
「俺の部屋だと言った」

 暖炉の炎がぼっと勢いを増した。ミーシャの頬はぴくりと引きつる。

「日中、陛下自らここへ案内してくれて、私の部屋だって……」
「そう。ミーシャの部屋でもあり、俺の部屋。というか、もともと俺の部屋だ」
「……ご冗談ですよね? また私をからかってますね?」
「いや、からかってない」

 ミーシャは笑みを顔に貼り付けたまま黙った。頭でわかっても心がついていかない。認めたくないと拒否をする。

「説明するから座って」

 リアムは立ちあがると、長椅子に座りなおした。
 一人掛け椅子は暖炉に近く上座だ。陛下である彼を差しおいて座るわけにはいかない。
 ミーシャは悩んだあげく、その場にぺたりと座った。
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