炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「陛下は氷を操れるのに、行けないのですか?」
「俺は氷を生成するのが得意だが、解氷(かいひょう)は苦手なんだ。できるけど時間がかかる」
 
 そうだったと、ミーシャは思いだした。
 クロフォード家の氷を操る力は創造に長けている。リアムは物を凍らせたり、なにもないところから武器や道具を瞬時に作るのはじょうずだったが、溶かすのは昔から苦手だった。

「陛下は氷の泉から地下水路を伝って、結界を国中に発動させることができると思いついたんですね?」
「さすが魔女、察しがいいな」

「グレシャー帝国の人は、そのことを知っているんですか?」
「漠然と、かな。宮殿から俺が魔力を使って結界を張っている。くらいだろう」

「氷の宮殿と、凍ったままの泉。地下で繋がっている、氷の空間……」
 
 ――気になる。もし、今もクレアほどの魔力があり、炎の鳥をもっと操ることができれば、その氷すらも溶かすことができたのに。

「今、氷を溶かしてみたいと考えただろ?」
「なぜわかったんですか?」
「顔に書いてある」

 ミーシャはあわてて顔を隠した。

「手を離すな。危ない」
「陛下が勝手に、私の考えを読むからです」

 リアムの頬にそっと触れた。陶器のように滑らかな肌はやはり冷たい。

「氷の宮殿を離れるとき、結界の維持はどのように? 魔力は、常に発動しているんですよね? 寝ているときも?」
「質問しすぎ」
「だって……陛下を、早く治療して差しあげたいですから」
「つまり、俺を早く治して、国に帰りたいってことか」

 雪混じりの冷たい風が頬をなでる。乱れた髪をミーシャは抑えながら、じっと自分を見つめるリアムに向かって頷いた。

「もちろんです」

 彼はゆっくりと、目を細めた。

「焦る必要はない。が、きみの願いが早く叶うように、協力する」

 前を向いたリアムは、暗い吹雪の中を、淡々と進む。
 心なしか、ミーシャを抱きしめる力はさっきよりも強く感じた。
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