炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「魔女にも人にも国にも色んな一面があって、見えている面だけがすべてではないということ。悪い魔女もいれば、良い魔女もいる。人の意見に耳をかたむけるのは大事だが、そのまま鵜呑みにするのはよくない」
「フルラの魔女は、良い魔女ってこと?」
「それはリアム自身がこれから見て知って、判断するんだ」

 リアムは、もう一度頬を膨らませた。
 オリバーは「おもしろい顔になっているぞ」と笑った。

「良い魔女、悪い魔女どっちでも、どうでもいいよ。僕がどうなろうと、誰も心配しない」

 ずっと腹の奥でくすぶっていた思いを吐きだすと、リアムは下を向いた。

「父さまも母さまも、厄介者の皇子はいなくなったほうがいいんだ。だから、平和のために僕をあげることにしたんだろ?」

 どんなに寒くても震えたことがない手がさっきから震えている。膝の上でぎゅっと拳を作る。馬が地面を蹴る音がやけに大きく聞こえた。

「おやおや。我が甥は私の言葉を理解していないようだ。一面だけを見るなと言っているだろ。卑屈になってどうする」

 両肩に重みを感じた。オリバーが手を置いたからだった。ゆっくり顔をあげると、やさしい瞳と目が合った。

「大事な皇子を他国にあげるわけがないだろう」
「でも……」
「不安に思うことはない。今回の留学はリアムのためだ。確かに平和のためでもあるが、それが本質ではない」
「……嘘だあ。国同士の平和のほうが大事でしょ」

 オリバーは困ったようすで眉尻をさげた。

「魔力のことは魔女か魔術師に聞けってことだ。陛下はリアムの将来を案じ、魔力コントロールを学ばせようと、最善の方法を選択しただけだよ」

 リアムは視線を自分の手のひらに向け、じっと見つめた。

 グレシャー帝国を統治する王家『クロフォード』は、個人差はあるが昔から魔力を持った者が生まれる。氷を操ることが得意で、リアムは歴代の王族の中でも魔力量が生まれたときから桁外れに多かった。

 たくさんあっても扱いかたがまるでわからない。いつも魔力を暴走、暴発させていた。日に何度も、あらゆる物を氷漬けにして、侍従たちを困らせた。

 これまでの失敗を思い出していると、手のひらに氷の結晶が生まれた。リアムの感情に呼応するように、結晶は数を増やし固まり、膨張していく。それを見たオリバーは大きな手を小さな手の上に重ねた。

「大丈夫だ。陛下も皇后も私も、みんな、リアムを愛している」

 不安がる甥に向かって、オリバーは静かに語り続けた。
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