炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
エマは本を置くと、呼びに来た友だちと一緒に走って行ってしまった。一人だけになったミーシャは、本を手に取り、ぱらぱらとページをめくった。

 絵本には、悪い魔女クレア・ガーネットが炎で大地を焼き、魔鉱石を使って人々を操り、世界を支配しようとしたが、グレシャー帝国の英雄リアム皇子が魔女をやっつけて、平和になったと描かれていた。

 ――氷の皇帝は、侵入者を凍り漬けにする『流氷の結界』で国を守っている。川を流れる氷は青白く輝き、炎の魔女は近づくことができない。か……。

 本の内容に複雑な気持ちになった。下を向いていると「おねえちゃーん」と呼ぶ、エマの声がして顔をあげた。

「おねえちゃんも一緒に、鬼ごっこしよう?」

 子どもたちの輪の中にいるエマが、手を振って呼んでいる。ミーシャは「今行く!」と声を張ると、本を閉じた。

 *

「……――いけない、もうこんな時間。私、そろそろ行くね」

 鬼ごっこをして、そのあと子どもたちと一緒に花冠を作っていた。
 夕方の四時を知らせる鐘が聞こえて、ミーシャは立ちあがった。

「おねえちゃん、もう帰るの?」
「うん。まだ行くところがあるの。ごめんね」
「帰らないで。もっと一緒に遊ぼうよ!」

 小さな子たちに悲しそうな目を向けられると、離れがたくて胸が詰まる。ミーシャは完成した花冠をエマの頭に飾ってあげた。

「また来るね」
「次は泥だんごを作ろうね!」
「わかったわ。約束ね」

 孤児院をあとにするとき、院長と子どもたちは、いつまでもミーシャを見送ってくれた。


 秋になり、日が暮れるのが早くなった。遅くなると書き置きはしてきたが、今ごろ侍女のライリーが心配しているかもしれない。ミーシャは西日に染まる道を駆けだした。

 十六年前、クレア・ガーネットは炎の鳥と一体になってこの世から姿を消した。
 彼女の身体は見つからなかったが、ミーシャとして生まれ変わったと気づいたエレノアは、ガーネット公爵邸から歩いて十分ほどの、街から離れた北の森にクレアを偲ぶための石碑を作った。今はそこへ向かっていた。

「手が、かじかむ……」
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