炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
 母エレノアとは炎の鳥を使って頻繁に連絡を取っていた。
 薬は国を出るまでに多めに作り、町の人に配ってきたが、それでも病状が悪化した人がいた場合は、症状を聞いて新たに調合している。

 ただ、いつまでも薬草があるわけではなく、持参した分はすぐになくなりそうだった。
 ここにいられる期間は半年。リアムの治療を急がなければ。

「陛下にお出しする分がなくなりそう。ここまで、薬草を入手するのが難しいなんて……」

「ミーシャさま、陛下にお願いしてみては?」
「それは、最終手段ね。悩んでいてもしかたない。とにかく庭に出てみましょう!」

 ドアを開けると廊下には、イライジャ・アルベルト侯爵子息が立っていた。

 リアムと同じ歳の彼は若くして、陛下を守る近衛騎士団長に上りつめた優秀な人だ。
フルラ国ではリアムが病で倒れたとき、馬を連れてきてくれた。ジーンと一緒でリアムの幼なじみ、そして、従兄弟だ。

 陛下の右腕であるイライジャをミーシャの護衛につけるなんてもったいないと、最初断ったが聞き入れられなかった。

「令嬢。外出の許可は陛下からいただいておりません」

 抑揚のない声で言うと、イライジャは身体を張って、行く手を阻んだ。

「私たちは庭に出るだけです。良かったらイライジャさまも一緒にいきませんか?」
 
 目鼻立ちがリアムに似ている彼は、眉間に深くしわを作った。

「いくら屈強なイライジャさまも、日中、ずっと立ちっぱなしだと身体がなまってしまいますよ。少しくらい散歩してもいいじゃないですか。宮殿の外には出ません」
「命令違反は……」
「わかりました。陛下には私が怒られます。だから行きましょう」
「では、少しだけお待ちください。陛下の意見を聞いて参ります」
 
 立場上、一応ミーシャのほうが彼より上だ。イライジャはしぶしぶといったようすで折れた。

「陛下のもとへ行くなら、私のお願いを頼まれてくれませんか」
 
 一度部屋の中に戻ると、布に包んだ物をイライジャに見せた。
pagetop