炎の魔女と氷の皇帝*転生したら弟子と契約結婚をすることになりました*
「オリバー大公、生きていたんですね」

 リアムは再びミーシャに背を向けるとしゃがみこみ、泉に魔力をそそぎはじめた。

「叔父は、師匠が放った炎に包まれ、死んだことになっている」

 オリバーはリアムの父、ルイス皇帝の弟で当時王位継承権一位だった。生きていれば、大きな魔力を持つ彼は今ごろ皇帝となって国を治めていたはずだ。

 今は亡きリアムの兄クロムも、リアム本人も、望んで皇帝になったわけではない。


 **クレアの記憶**

『なんてことを……』

 十六年前、異変に気がつきフルラ城へ駆けつけたクレアは、目の前の光景に言葉を失った。

 リアムと出会った噴水庭園の水は枯れ、焼け焦げたあとだった。庭園だけではなく、ここに来るまでのフルラの街全体が朱い炎に包まれていた。木々や建物が焼け崩れる中、フルラの民は逃げ回った。

 フルラ兵はあちこちに倒れ、青い魔鉱石を持つグレシャー帝国兵だけが闊歩する、異様な光景が広がっていた。

『討つべき敵はクレア・ガーネット! 人々を操り、世界を支配しようとする悪い魔女を倒せ!』

 声高々に、グレシャー帝国兵を扇動し、指揮していたのはオリバー大公殿下だった。

『オリバー叔父さん、どうして……。やめて。なぜこんな酷いことを!』

 リアムはフルラの国に留学して五年目だった。当時十歳の彼は驚き混乱しつつも、叔父をとめようとした。

『リアム、逃げなさい。来ないで!』

 クレアはリアムを遠ざけ、逃がすよう手配していた。しかし、彼は一人できてしまった。

 オリバーが右手を高くあげる。彼は自分の甥に向かって、氷の飛礫(つぶて)を放った。
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