香澄くんは心配症〜吸血鬼の幼なじみと友達以上恋人未満?〜
「だってこの花束、僕が贈ったときにもう受け取ってくれるよね?」

「うん、受け取ったけど‥‥‥‥え?」

「え?」

花束を間に、お互いの頭にクエスチョンマークが浮かんでる。

「三本のバラは、愛の告白って‥‥」

「そうなの?」

私の返事に、香澄くんは頭を抱えてしまった。

「もしかして、人間の方ではそういう意味ないの?」

「わかんないけど、少なくとも吸血鬼側ほど一般的ではないと思う」

「まじでかー」

香澄くんは頭を抱えたまましゃがみ込んでしまった。

「なるほどなるほど。道理で付き合ってからも態度変わらないし、なかなか距離が縮まらないと思った」

なにかを納得した香澄くんはすっくと立ち上がり、私を抱きしめる。

「でもよかった。かしこまって呼び出すから、別れ話かと思った」

手は冷たい香澄くんだけど、腕の中はちゃんと温かかった。
私も花束を持ったまま、香澄くんの背中に腕を回す。

あの花束が愛の告白で付き合ってるつもりだったんなら、私は香澄くんにとって、特別な存在ってことだよね?

「よかった。僕、結構いろいろ悩んでたんだよ」

付き合ってるつもりで付き合ってないつもりの私と接していたのなら、確かにそうなると思う。
でも、私もまさか香澄くんが付き合ってるつもりだったなんて知らなかったから、悩んでたんだよ。

香澄くんが意外とモテなくて、私が香澄くんと一緒にいても平気な理由。
なんだ。
香澄くんがもう彼女持ちで、私がその彼女だったからなんだ。

「でも、付き合ってるつもりがなかったんなら、僕にあちこち触らせちゃダメでしょ」

コツンと額と額を合わせて、叱られる。

「だって、香澄くんになら、よかったんだもん‥‥」

付き合ってなくても、好きだったから。

「嬉しいこと言ってくれるなぁ」

またぎゅーっと抱きしめられる。

「いろいろ遠慮しちゃってたけど、もうしなくていいよね?」

香澄くんの指が、私の首筋をくすぐる。

「あの日も、もう終わってるね」

香澄くんは吸血鬼だから血の匂いには敏感で、私から匂いがしなくなってることにもすぐわかってしまう。

香澄くんは優しくて気遣ってくれるけど、やっぱりデリカシーがない。

でも、そんな香澄くんでも私はーー

私が頷くと、香澄くんの唇が降ってきた。
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