スノーフレークに憧れて

第32話


 告白をしてお互いの気持ちを
 確かめ合った。


 何も言わずに自然と手を繋ぐ。


 拒否することもない。

 
 手を繋いで
 相手の緊張がすぐわかった。


 手汗もかくし、
 脈がわかるような温かさ。


 何度か一度手を離して、
 ズボンで拭いたりした。


 言葉に表すこともなく、
 菜穂の家まで隣同士に歩いた。


 いつも見ている帰り道の景色が
 別世界に見えた。

 
 もう、通学路で同じ高校の生徒や
 他校の生徒に見られても
 気にしてなかった。


 歩きながら龍弥は聞く。


「何、考えてんの?」



「別に…何も。」



「今日のフットサル行くんだよね?」



「うん。」



「言葉、少なっ!それだけ?」



「うん。」



「なんで?」



 顔をかがめて見つめる。

 バシッと顔を軽くたたく。



「もう、無理。それ以上はいい。」


 菜穂は、顔を真っ赤にさせて、
 そっぽをむく。


 至近距離で気持ちが
 耐えきれなかった。

 

「満足ってこと?」

 

 心がホクホクと満足しすぎていて、

 何か言葉にすることさえも
 余裕がなさすぎた。


 今は、
 ただ手を繋いで、
 そばにいるだけで十分だった。


 菜穂は、静かに頷いた。


 あんなにいろんなことを
 不安に考えすぎていたのに、
 自分はどうしてしまっただろうと
 胸がドキドキする。


 深呼吸しても落ち着かない。


 家の前の門に着いて、
 龍弥は、振り返る。


 繋いだ手を離した。
 

 くっついてた手が離れていくのが
 寂しかった。


 また数時間後に会えるのに。



 右手で菜穂の左頬を触れる。



「顔、赤い。」



「何も言わないで!!」



 恥ずかしすぎて、首を横に振る。


 左脇側から顔を近づけて、
 そっと頬に小鳥が近づくような
 速さでキスをした。


「恥ずい!!」


「さっきもしたじゃん。」


「もういい!!さよなら。」



 門を開けてはすぐ閉めて、
 玄関に走って行った。


 バタンとドアを閉めた。
 閉めたドアを背に肩が何度も動く。
 息が荒い。


 今日は何もしなくても
 かなりカロリー消費している
 気がする。
 精神状態の揺れ幅が大きい。


 ポツンと別れ際で振った手が
 置いてきぼりされている気がする。
 
 龍弥は出した手を引っ込めて、
 ポケットに突っ込んだ。


 両手をポケットに入れるのが
 癖だった。

 バックからワイヤレスイヤホンを
 取り出して、音楽を聴いた。
 
 来た道を戻って歩いた。

 龍弥の家は菜穂の家の反対方向に
 あった。

 彼氏になると、危ないからと彼女を
 お家まで送るという習慣が
 いつの間にかできているが、
 その帰りに男子に何も起きないとは
 限らない。


 今の世の中、
 男子にも手をつける不審者もいる。


 というのも、
 龍弥は弱いわけではない。

 
 ただ、1人でポツンと来た道を
 戻るのが寂しい気持ちになると
 いうことだ。


 それを彼女である菜穂は
 知っているのかと思ってしまう。


 早く帰ってから学校の課題を
 やらないと、
 フットサル開始まで
 あと3時間しかない。

 
 確か、今日は英語の教科書の
 数ページを日本語訳にするという
 宿題が出ていたはずと
 龍弥は思い出した。


 ハッと現実に引き戻された。


 今まで、本気の両想いに
 なったことがない龍弥にとって
 心が躍っていた。


 自信がなかったのに
 まさかokをもらえるなんて
 思ってなかった。


 これが付き合うってことなのかと
 考えたが、
 そもそも付き合うってなんだと
 自問自答を繰り返す。


 
 良いと言ったものの、
 実際どうすればわかっていない。


 世間一般のことや、
 他人のアドバイスはできるのに
 自分のことになると
 右往左往するようだ。

 フットサル場に着いたら、
 まず下野に相談しようと決めた。


 菜穂は、深呼吸をして整えた。

 やっと落ち着いた。
 
 まるでジェットコースターに
 乗ったような気持ちだ。


 木村悠仁に
 はっきり付き合えないから
 ごめんなさいと謝って、
 そこの間に入ってきた龍弥に
 わかりやすい態度をとって、
 まるで言ってくれと言わんばかりで
 作戦を立てたみたいだった。

 
 菜穂自身、そんなつもりは全然ない。


 行き当たりばったりで起きた出来事。


 本当は同じ学校での彼氏は
 絶対作らない宣言していたのに、
 結局真隣に座るクラスメイトと
 付き合うことになっている。


 今更付き合ってないって宣言しても
 バレてるんだろうなって感じる
 菜穂だった。


 家に着いてすぐ、
 彼氏になったんだから、
 少しでもラインの連絡は
 まめになるのかなと
 スマホをチェックしてみても、
 何も音沙汰ない。


 こちらから
 メッセージを送るのも
 しゃくだから何もせずに
 釣りゲームのアプリを
 起動して、
 大きいジンベイザメを釣って
 コインを稼いだ。


 やったーと喜んでみても心は
 全然満たされていなかった。


「菜穂、何してるの?玄関に座って。
 中に入りなさいよ。
 今日、フットサル行く日でしょう?
 宿題は?」


 リビングのドアを開けて、
 母の沙夜は声をかけた。


「あ、ただいま。
 うん、今、宿題してくる。
 夕ご飯おにぎりだけで良いから。」


「はいはい。鮭で良いの?」


「うん。OK。」

 2階にある自分の部屋に
 駆け上がった。
 
 龍弥と同じクラスのため、
 もちろん同じ宿題の
 英語の日本語訳の宿題が
 あることを思い出した。


 フットサルに行くと帰りは
 23時過ぎてしまう。


 そこから宿題をするには
 睡眠が少なくなる。


 教科書とノートを開いて、
 辞書を横にいざ書こうとしたら、
 あくびが出てそれどころでは
 なくなった。
 

 目の前が白くなり、
 パタンと机の上に
 顔を埋めてそのまま眠ってしまった。

 
 頭をふんだんに使い過ぎて
 疲れ切っていた。


 フットサルに行くって
 約束していたはずなのに、
 母の沙夜の声を聞こえないくらい
 それくらい眠かった。

 目が覚めた時には、午前2時。

 
 勉強机に置いているLEDライトが
 煌々と光り、
 白いノートを照らしていた。

 
 口からよだれが垂れそうだったのを
 吸い込んだ。


 スマホに不在着信1件と
 メッセージが一言と
 スタンプが押されていた。



『来てくれないのはヤダモン』



 と一言
 うるうる泣いた顔の
 可愛い動物スタンプだった。


 もちろん
 キャラクターは狼だった。


 菜穂はニコリ笑って、
 スタンプ送信をした。

 ごめんねと
 頭を下げたうさぎのイラストだった。


 まさか、起きてるわけないだろうと
 スマホをパタンと机に
 置いたらポロンと音が鳴った。

 怒ってる猫のスタンプが来た。


 かと思ったら
 
 
 『嘘。俺も行ってないよ。
 疲れて寝てた。菜穂もでしょ?
 下野さんから鬼電来てたわ。
 明日はしごかれるな。』


『おやすみ』

 菜穂はその一言だけ返すと
 風呂にも入らずそのまま
 ベッドに寝ついた。

 体を休めることが最優先だと考えた。
 明日の朝にシャワーを浴びよう。

 
 ライン交換ができて
 ホッとした菜穂だった。


 なかなか既読がつかず、
 イライラする龍弥だった。












 


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