スノーフレークに憧れて

第54話


 
 あれから
 11年の月日が流れた。


 龍弥と菜穂は
 喧嘩して別れては
 またくっついて

 その繰り返し
 
 それでも腐れ縁のように
 元さやに戻る。


 嫌だと思っても
 周りの友人の影響で
 
 いつの間にか
 縁があって
 再会した。
 

 人生のターニングポイントの
 折り返し地点になった。


 友達から恋人に別れては

 また再会して恋人に戻って
 
 家族の勧めでそろそろ
 いいじゃないのような
 空気感が漂う頃


「菜穂、
 いつまでモタモタしてんだよ。」

「ちょっと待ってよ。
 今、ピアスつけてるんだけど、
 キャッチがうまく入らない…
 やっと入った。
 今行ける。
 さ、行こう。」


「良い加減、慣れろって。
 何年も付けてんだろって。」


 車の運転席のドアを開けて、 
 エンジンをかけた。

 オーディオの音楽が同時にかかる。

 菜穂は助手席に乗り込んだ。

 着ていたロングスカートを丁寧に
 後ろから整えた。


 お互いに大学を卒業し、
 就職先が決まって数ヶ月。

 やっと職場に慣れてきて
 5月病っぽい症状も乗り切った
 とある日曜日。

 2人が家族総出が集まるところへ
 向かっていた。

 同棲生活も仕事が決まったと同時に
 一緒に住み始めていた。

 それぞれ1人暮らししていたが
 家賃代がもったいないと
 龍弥の家に住み込むように
 なっていた。


 徐々に食器や衣服、
 お気に入りのインテリアを
 知らず知らずのうち
 移動させていた。



「てかさ、今日くらい
 早く起きられないわけ?」


「そっちこそ、目覚まし時計
 何回スヌーズ機能
 使いまくってるのよ。
 しかも
 夜中、ずっと
 寝かせてくれないのは誰よ。
 こっちは残業続きで
 疲れてるんだよ?
 昨日も土曜日休みだけど
 買い物で全部時間潰れたし。」


「それはお互い様だろって。」


「ぶーぶー。」


「豚か?いいだろ。 
 別に、睡眠時間5時間は
 確保してるんだから。
 そこは計算済みだ。」


「良いよ、何とでも言って。
 はいはい。
 計算高い男だねとでも
 言って欲しいのかな。」


「てか、今日、みんな来るんだろ?
 いくら小さい式って言っても
 大事な人くらい呼びたいって
 言ってたもんね。
 俺の場合は両親いない分、
 親戚の人数が少ないからな。」


「うん、呼んでたよ。
 てか招待状送ったの
 龍弥の方じゃん。」


「そんな送ったの俺だけど、
 返事なんて見る暇ないよ。
 郵便物が次から次って
 来るんだから。
 てか、ライン見ればわかるだろ。
 ラインでも最終確認で
 チェックしてんだから。」

 バックからスマホを取り出して
 ラインを確認する菜穂。

「車はどこに停めるの?
 駅前だし、少し歩くよね。」


「東口で良くねぇ?
 あそこ安いじゃん。」

「そっか。」

 当日の予定も確認しない龍弥は
 その都度菜穂に聞く。


 先が思いやられるなと感じ始めた。


 今日は、2人の結婚式当日だった。
 駅前にある
 小さな少人数の式場にした。
 
 駐車場の関係で 
 現地集合という流れだった。
 
 大きい会場の場合、
 親戚はバスを使って
 行くと流れがあるとかないとか。
 人数もそこまでいないため、
 ほぼ友人の方が多いという
 感じだった。


「というか、
 本当にここで良かったの?」


「うん。ドレスが着れれば
 小さくても全然。
 むしろ、恥ずかしいから
 写真だけでも十分だったのに。」

「それはおばあちゃんが
 かわいそうって言うからさ。
 晴れ姿を直接見たい、
 残り短い命だからって
 言うもんだから。
 付き合わせて悪いけど。」

 
 駅前の連絡通路を歩きながら
 話す2人。

「やばい。ラインのメッセージが
 鳴りまくってる。
 主役が遅刻ってどういうことって
 みんな怒ってるわ。
 ほら、行くぞ。」

「え、待って。
 ヒール履いてるから
 歩きにくいの。」

「大人ぶってハイヒール履くなよ。
 なんでスニーカーにしないんだよ。
 あれ、前にもこんな雰囲気なこと
 あったような…。
 ああ、花火大会の時か。
 菜穂、いつも、
 スニーカーにすればいいのに
 浴衣に下駄履いて
 痛くなるもんな。
 何回俺にサンダル買わせるんだか。
 学習能力が足りないつーの。」


「仕方ないでしょう。
 女子はおしゃれしなくちゃ
 いけないんだから。」


「いつまで女子言ってるんだよ。
 もう25になるだろうって。」


「むー。」


 いつも通りのやり取りが
 繰り広げられていた。

 こんな時でも2人は言い合いになる。

 それが良いのかもしれないと
 お互いに思っている。

 式場でそれぞれ着替えた。

 ドレスとタキシードを着た姿を
 お互いに見つめながら、照れていた。
 笑ってコメントができなかった。
 恥ずかしいのが勝っていた。


 遅刻する以外は式に関して
 最後まで滞りなく、執り行われた。



 式に参加していたのは、
 フットサルでいつも試合をしていた
 いつもメンバーと
 高校の同級生だった。


 38歳の下野康二と結婚した
 35歳の齋藤瑞紀が小さい3歳の
 子どもを抱っこして参加している。


 25歳の滝田 湊は東北大学に
 現役で通っていた。
 勉強しすぎなのかメガネをつける
 ようになっていた。
 

 高校の共通の友人で
 美容師になった石田紘也と
 山口まゆみは結婚していて
 いつの間にか子どもが5歳に
 なっていた。
 22歳でもう結婚していたらしい。


 システムエンジニアになっていた
 杉本政伸も来ていた。
 未だに独身のようだ。




 菜穂の両親と祖父母
 龍弥の義父といろは、
 いろはの祖父母も来ていた。



 そんな中で
 牧師さんのような
 司会進行のかけ声で
 指輪の交換もするし、


 みんなの前で結婚することを
 宣言するし、

 みんなの前で恥ずかしながら
 誓いのキスもする。


 披露宴では、
 いつもは食べない高級食品を
 食べた。 


 余興では、ウエディングソングの
 定番の花嫁サンバや家族になろうよ
 などの歌を歌ってくれる人がいた。


 龍弥は
 みんながそれぞれの座る場所に
 瓶ビールを片手に持ち、
 相手のコップに注ぎながら
 近況報告を
 聞いてまわった。

 菜穂は席を立たず、
 声をかけてくれる人に
 それぞれ対応していた。

 性格が分かれている。


 相反する性格だからこそ
 相性がいいのかもしれない。


 
「龍弥くん、
 やっと落ち着いたんだね。
 一時はどうなることかと
 思ったけど、
 やっぱり、冒険して、
 菜穂ちゃんが良いって
 言ってたもんね。
 俺はホッとしたよ。
 なんだかんだ言って 
 2人の喧嘩が見られなくなるのは
 マジで寂しかったから。
 また、フットサルで
 試合しに来てね。
 最近は忙しいみたいで
 中々、顔出してくれない
 みたいだけども。」

 下野は、ビールをグビグビ飲みながら言う。
 瑞紀は子どもを膝に座らせて、下野の
 肩を撫でた。

「下野さん。
 本当、色々と助かってますよ。
 いつも、軌道修正してくれるの
 下野さんくらいしかいないから。
 親身になってくれてありがたいと
 思ってます。
 これからもよろしく
 お願いしますよ?」

 龍弥は下野のコップに
 瓶ビールでおかわりを注ぐ。

「おう。お互いに嫁との関わり、
 頑張ろうな。」

「なんか言った?」
 
 瑞紀が急に怒った顔をする。

「何でもないっす。」


「萌~、萌は
 お父さんの味方でいてな。」

 下野は娘に抱きついて泣いた。

 龍弥は席を移動した。

「石田!
 まさか、2人、結婚してるとか
 知らなかったんだけど。」

「あー、実はね。
 そういうことなんよ。
 報告しなくてごめんね。」


「本当、龍弥くん、全然うちらに
 連絡よこさないから
 浦島太郎状態だよ。
 菜穂とずっと付き合ってたの?
 長くない?」

「いや、菜穂とは
 付き合ったり別れたりしてたよ。
 結局は元さやね。

 てか、お前らも高校からだよ。
 あれ、あの時は付き合って
 なかったよね。」


「そうそう。
 専門学校通っている時に
 偶然一緒になった合コンで
 意気投合して、
 久しぶりだったから
 学校の話で盛り上がってさ。
 そこからだよね?」

「うん。そう。
 ほら、俺の息子。
 挨拶して。」

「こんにちは。」
 恥ずかしいそうに言う。

「名前は何て言うの?」
龍弥は聞いた。

「石田アクアです。」


「お!?今流行りのキラキラネーム?」


「おう、かっこ良いだろ?
 俺が名前考えた。」


「私はやめろって言ったんだけどね。
 それにしないと仕事辞めるって
 言うから、仕方なく…。」

 まゆみはため息をついて、
 アクアを抱っこした。

「ま、いいじゃない。
 かっこいいじゃん。
 な、アクアくん。」

 龍弥は頭をポンと撫でた。

「ビーム!」
 急に戦いごっごが始まる。

「うーーーやられた。」

 とやられたふりをした龍弥。
 手を振って別れを告げた。

 そのまま元の席にもどる。


「お疲れ様。」

「おう。菜穂は、大丈夫だった?」


「うん、平気。
 でも、席立たなくてよかった?
 無理してても回れば良かった。」


「別にいいよ。
 体、心配だから。
 無理すんなって、
 今大事な時だから。」


 菜穂はお腹をさすって
 かかんだ。


「うん、今のところは
 問題ないんだけど。」


「あと少しで終わるから。
 な?
 俺、親父のところに行くの忘れた。
 ちょっと行ってくる。」


「うん。」


 龍弥は思い出したように、
 義父の雄二が座るテーブルに座った。
 近くにはいろはと祖父の良太、
 祖母の智美が座っていた。

「龍弥、おめでとう。
 良かったな。
 結婚できて。
 父さん、あまり、仕事仕事で
 お前のこと見てやれなかったけど、
 おじいちゃん、おばあちゃんに
 話は聞いてたから。
 菜穂ちゃん、良い子だよな。
 昔の母さん思い出す。」

「え?」

「あ、悪い。
 そろそろ、本当のこと
 話そうと思って、
 お前も良い大人だしね。
 黙っていて悪かったんだけど、
 俺は本当にお前のお父さんだから
 安心して。
 お母さんは交通事故で
 亡くなったのは事実だけど、
 お母さんと美香子は実の姉妹で、
 龍弥からするとおばちゃんなんだ。
 血のつながりはあるの。
 いろはは、本当の妹。
 母親と父親は全く一緒。
 俺の子。
 色々複雑で申し訳ないんだけどさ。
 そういうことだから
 独りよがりにならないでドンと
 俺に頼ってくれていいからな。
 まぁ金銭的援助くらいしか
 できないけども……。」

 龍弥はあいた口が塞がらない。
 今まで孤立して、
 殻に閉じこもって
 自分が自分じゃないみたいな
 雰囲気になって
 今更俺が父親って言われても
 納得できなくて
 何が何だかさっぱりわからなかった。

「私は知ってたけどね。
 だいぶ前から…。」

 水色ドレスを着たいろはが 
 オレンジジュースを飲んで話す。


「嘘、知らなかったのは、俺だけ?」

「単純に
 お母さん亡くなって
 お父さんが
 1人で子どもの世話できなかった
 から、小さいうちに育てるのを
 他の人に任せようってことになって、  
 里親制度を頼んだら、
 たまたま、
 お母さんのお姉さんだったって話。
 ふたを開けたら
 血縁関係だったってこと。
 多分、市役所の人も
 わかってて繋ぎ合わせたと
 思うけどね。
 お母さんの名前苗字変わってたから
 気づかなかったのよ。きっと。
 白狼って珍しいし、
 美香子おばちゃんも
 婿養子取るくらいでしょう。」

「でも、なんで、俺だけ
 離された?
 一緒でも良くない?」


「ごめん、
 俺、男の子育てる自信がなくてさ。
 小さい頃からお母さん、お母さんって
 龍弥、俺のこと嫌ってたから。
 仕事で
 家にろくにいられなかったし。
 ま、今となっては
 美香子さんたちと
 一緒に暮らしてくれて
 本当に助かったよ。
 馴染んでたから。」

「いろいろ隠しててごめんね。
 龍弥。おばあちゃんは結婚してくれる
 だけで本当に幸せもんだよ。」

「俺もだよ。
 本当、龍弥、おめでとうな。」

 智美と良太は泣いて喜んでいた。


 大人の事情。なんで晴れの舞台の
 こういう場所で言うんだか、
 何だか複雑だったが
 本当の父がわかって嬉しくなった。

 自分はどこの人間で誰の子かを
 ずっとずっと探していた。

 本当の母の正体も知ることができて
 心底安心した。
 父から後で母の写真をこれでもかと
 見せてもらった。


 俺はここに存在してていい。

 生きてていいとさえ思った。

 いずれ生まれてくる子どもを
 胸はって出迎えられる。
 
 そんな気さえした。



 結婚式を終えた2人はそのまま
 新婚旅行へと旅に出かけた。

 仕事の休みもまとめてでしか
 取れないため、
 ここというところで確保した。

 と言っても、国内旅行で
 済ませていた。
 
 あまり遠出することを嫌う菜穂は
 国内で十分という話だった。


 空は雲を吹き飛ばして
 パキッと晴れていた。


 飛行機雲も出ていない。


 明日もきっと晴れるだろう。
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