出戻り王女の恋愛事情〜人質ライフは意外と楽しい
「そんなのおかしいですよ!」
バンッとキアラが机を叩いた。
ビクリとジゼルは驚いて彼女を見た。
「キアラ、慎みなさい。王女様が怯えていらっしゃるわ」
レシティが彼女を咎めた。
「す、すみません。でも、お相手の方っておいくつなんですか? もう立派な大人なのに母親に逆らえないなんて、情けないですね」
「そうですよね。そう思いますよね」
メアリーもキアラの言葉に激しく同意する。
「メアリー、あなたまで」
「だってジゼル様、子供がどうとかで、ジゼル様の価値を決められたことが腹立たしいのです。こんなにお美しくてお優しいジゼル様を奥方に出来ただけでも光栄なことなのに、それがわからない唐変木」
「メアリー、相手は大公閣下よ。口を慎みなさい」
「でも…」
「ここでの話は外に漏らすことはありません。文句くらい言わせてあげてくださいよ。王女様のために怒っているんですから」
レシティがメアリーを庇う。
「それは…わかっていますが」
「本当にそれが離縁の理由なら、怒っていいと私も思いますよ。逆になぜ怒らないか不思議です」
「でも、妊娠出来なかったのは、私が…」
「私だって、子供が出来ませんでした」
「え?」
レシティが自分もそうだと暴露した。それを聞いてジゼルとメアリーは当然驚いた。他の皆は知っているようで、特に何の反応も示さない。
「私と王女様では立場も身分も違いますから、同じと思うなと言われるかもしれませんが、お腹を痛めた我が子を抱きたいとは思いましたよ。子供が好きならそう思って当然です。でも、出来ないものは仕方がありません」
あっけらかんと軽い口調でレシティは話す。
「結婚すれば、当然出来ると思っていましたが、そんなことはなかった。後継ぎとかそんなものを考えるような立派な家じゃありませんけど、情けなかったですよ。だから王女様の気持ちは理解できます」
レシティは自分の心情をポツポツと話す。
「女だから母性があると思われるでしょうが、子供が嫌いな女だっていますよ。女は必ず子供を生むべきだとか、そんなのくそ食らえです」
「く、くそ」
「あ、すみません、今のは失言でした。つまり、私達が言いたいのは、子供が出来なかったことで女として価値がないとか、気に病む必要はないということです」
「そうですよ。そんなに綺麗な姿形で生まれて来たのに。それだけで人生薔薇色ですよ。私も王女様みたいな顔と体だったらどんなに良かったか」
「そうなったら、誰もが悔しがる一番良い男を旦那にしたわ」
キアラがそう言って、皆がどっと笑った。
「結局産めなかったけど、代わりに親のない子を引き取って育てました」
「ユリウス様の副官のランディフさんが、レシティさんの養い子ですよ」
「まあ、グローチャーさんの…お義母様だったのですか」
「そうだったんですね」
自分の知る人の義母だと聞き、急にレシティをとても身近な存在に感じた。
「うちの息子は、王女様に失礼なことを致しませんでしたか?」
「いいえ、とても親切にしていただきましたわ」
「そうですか。作法などよく知りませんから、不躾なことをしていないかと心配しておりましたが、安心いたしました」
「私もメアリーも、旅慣れておりませんから、色々気遣っていただきました。ねえ、メアリー」
「はい」
ジゼルの言葉にメアリーも頷くと、レシティはほっと安堵して微笑んだ。
その顔は、王妃であるジゼルの母親を思い出させ、まさに子のことを思う母親そのものだった。
「お辛かったですね」
ふと、レシティの表情が同情を込めたものに変わった。
「嫁ぎ先でそのように言われて、きっと国に戻られてからも、誰にもその辛さを吐き出せなかったのではないですか?」
突然の言葉に、ジゼルは咄嗟に表情を作ることが出来ずに狼狽えた。
「その…」
ジゼルの視線がメアリーの顔に行く。
「ジゼル様?」
メアリーがジゼルの動揺に対して戸惑いを見せる。
「離縁の原因のひとつが不妊と言われたら、そんな風に我が子を生んだとご両親も責任を感じるでしょう。だからご両親の前でそれを嘆くことも出来ない」
ジゼルは黙って俯いた。図星だった。
両親も彼女がなぜ離縁となったのか、その理由を知っている。トリカディールとの戦争は表向きの口実だと、父達もわかっている。だが、どのようなことを言われたのかまでは、彼らは知らない。不良品だと蔑まれて辛い思いをしたことを話せば、両親を苦しめることになる。
「ジゼル様!」
ポロリと、ジゼルの目から涙が滲み出て溢れ、メアリーもその場にいた全員が驚いた。
「ご、ごめん…なさい」
「皆、手が止まっているわ、作業に集中よ!」
レシティがパンと手を打ち鳴らした。
「レシティさん」
「ほら、手を動かして」
皆に発破をかけながら、彼女はすっとハンカチをジゼルに差し出した。
「思い切り泣いたならスッキリしますよ。そしたら、また明日から頑張りましょう」
「ありがとう…ございます」
そのまま皆は黙って作業する側で、ジゼルは泣き続けた。
バンッとキアラが机を叩いた。
ビクリとジゼルは驚いて彼女を見た。
「キアラ、慎みなさい。王女様が怯えていらっしゃるわ」
レシティが彼女を咎めた。
「す、すみません。でも、お相手の方っておいくつなんですか? もう立派な大人なのに母親に逆らえないなんて、情けないですね」
「そうですよね。そう思いますよね」
メアリーもキアラの言葉に激しく同意する。
「メアリー、あなたまで」
「だってジゼル様、子供がどうとかで、ジゼル様の価値を決められたことが腹立たしいのです。こんなにお美しくてお優しいジゼル様を奥方に出来ただけでも光栄なことなのに、それがわからない唐変木」
「メアリー、相手は大公閣下よ。口を慎みなさい」
「でも…」
「ここでの話は外に漏らすことはありません。文句くらい言わせてあげてくださいよ。王女様のために怒っているんですから」
レシティがメアリーを庇う。
「それは…わかっていますが」
「本当にそれが離縁の理由なら、怒っていいと私も思いますよ。逆になぜ怒らないか不思議です」
「でも、妊娠出来なかったのは、私が…」
「私だって、子供が出来ませんでした」
「え?」
レシティが自分もそうだと暴露した。それを聞いてジゼルとメアリーは当然驚いた。他の皆は知っているようで、特に何の反応も示さない。
「私と王女様では立場も身分も違いますから、同じと思うなと言われるかもしれませんが、お腹を痛めた我が子を抱きたいとは思いましたよ。子供が好きならそう思って当然です。でも、出来ないものは仕方がありません」
あっけらかんと軽い口調でレシティは話す。
「結婚すれば、当然出来ると思っていましたが、そんなことはなかった。後継ぎとかそんなものを考えるような立派な家じゃありませんけど、情けなかったですよ。だから王女様の気持ちは理解できます」
レシティは自分の心情をポツポツと話す。
「女だから母性があると思われるでしょうが、子供が嫌いな女だっていますよ。女は必ず子供を生むべきだとか、そんなのくそ食らえです」
「く、くそ」
「あ、すみません、今のは失言でした。つまり、私達が言いたいのは、子供が出来なかったことで女として価値がないとか、気に病む必要はないということです」
「そうですよ。そんなに綺麗な姿形で生まれて来たのに。それだけで人生薔薇色ですよ。私も王女様みたいな顔と体だったらどんなに良かったか」
「そうなったら、誰もが悔しがる一番良い男を旦那にしたわ」
キアラがそう言って、皆がどっと笑った。
「結局産めなかったけど、代わりに親のない子を引き取って育てました」
「ユリウス様の副官のランディフさんが、レシティさんの養い子ですよ」
「まあ、グローチャーさんの…お義母様だったのですか」
「そうだったんですね」
自分の知る人の義母だと聞き、急にレシティをとても身近な存在に感じた。
「うちの息子は、王女様に失礼なことを致しませんでしたか?」
「いいえ、とても親切にしていただきましたわ」
「そうですか。作法などよく知りませんから、不躾なことをしていないかと心配しておりましたが、安心いたしました」
「私もメアリーも、旅慣れておりませんから、色々気遣っていただきました。ねえ、メアリー」
「はい」
ジゼルの言葉にメアリーも頷くと、レシティはほっと安堵して微笑んだ。
その顔は、王妃であるジゼルの母親を思い出させ、まさに子のことを思う母親そのものだった。
「お辛かったですね」
ふと、レシティの表情が同情を込めたものに変わった。
「嫁ぎ先でそのように言われて、きっと国に戻られてからも、誰にもその辛さを吐き出せなかったのではないですか?」
突然の言葉に、ジゼルは咄嗟に表情を作ることが出来ずに狼狽えた。
「その…」
ジゼルの視線がメアリーの顔に行く。
「ジゼル様?」
メアリーがジゼルの動揺に対して戸惑いを見せる。
「離縁の原因のひとつが不妊と言われたら、そんな風に我が子を生んだとご両親も責任を感じるでしょう。だからご両親の前でそれを嘆くことも出来ない」
ジゼルは黙って俯いた。図星だった。
両親も彼女がなぜ離縁となったのか、その理由を知っている。トリカディールとの戦争は表向きの口実だと、父達もわかっている。だが、どのようなことを言われたのかまでは、彼らは知らない。不良品だと蔑まれて辛い思いをしたことを話せば、両親を苦しめることになる。
「ジゼル様!」
ポロリと、ジゼルの目から涙が滲み出て溢れ、メアリーもその場にいた全員が驚いた。
「ご、ごめん…なさい」
「皆、手が止まっているわ、作業に集中よ!」
レシティがパンと手を打ち鳴らした。
「レシティさん」
「ほら、手を動かして」
皆に発破をかけながら、彼女はすっとハンカチをジゼルに差し出した。
「思い切り泣いたならスッキリしますよ。そしたら、また明日から頑張りましょう」
「ありがとう…ございます」
そのまま皆は黙って作業する側で、ジゼルは泣き続けた。