両手でも抱えきれぬ愛で贖えるものなら
惑い
例の俺様男は、あれからもずっと、私のピアノ演奏の日には必ず来ていた。

その都度、何かと声をかけてくるので、

「もう、やめてください!私は商売女じゃないんです」

少し怒って言うと、男は乾いた笑いで、

「連絡、待ってるんだけどなぁ。何で電話かけてこない?」

「電話代が勿体ないので」
 
「お嬢様が電話代も払えないってか」

流石にうんざりだ。

「あのお名刺なら、すみませんが破棄させて頂きました。最初に言いましたよね?私には恋人が居るって」

「聞いたけど、それが何?」

呆れた…。
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