猫族の底辺調香師ですが 極悪竜王子に拾われました。
 恥ずかしくてたまらないが、拒否権ははなか与えられていないのだから従うしかない。それに全く嫌ではないのだ。ただ自分だけがしてもらっているのは申し訳ないので、今度ロルフの髪を乾かしてみたいなんて思う。濡れた白銀の髪はとても綺麗だから。

「……ニーナ、なにを考えている?」

 ロルフが乾かしてくれた髪を今度は櫛で丁寧に梳いてくれる。時折頭を撫でられるのが気持ちいい。ぼうっとしたまま、ニーナは思ったことをそのまま口にする。

「私はロルフ様が好きなんだなって……」

 口に出し終えてから、もう遅いことに気付く。ロルフの手が静止して、呼吸が止まった気配がした。言ってしまった。よりによって、こんなタイミングで。

「そ、その、今のは……その……」

 振り返ることもできずにいると、背中からぎゅっと抱きしめられた。

「今のは冗談なんて言わないでくれ」

 縋るような声だ。冗談なわけがない。ニーナは精一杯小さく首を横に振る。

「あの日、市場で君を一目見た瞬間、十三年前の君だと気付いた。まさかと、最初は信じられなかった。君の記憶を消してほしいと願った以上、関わるべきじゃなかった。自分の命が短いと分かっていながら君に触れるのはあまりに利己的だ」

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