猫族の底辺調香師ですが 極悪竜王子に拾われました。
「……お返事、まだでしたよね。……受け取って頂けますか」

 ニーナは今までに無いほど輝いている《真実の愛》の香水を竜に差し出した。ロルフはニーナに顔をすり寄せ、蒼い瞳で強請るようにいった。

 ――ありがとう。もちろんだ。そうだ、今この姿でつけるのは難しいからニーナが着けてみてくれないか?

 確かに竜の姿ではどこに着ければいいか分からないし、量も沢山必要になる。ニーナは頷いて自分に《真実の愛》を纏うと竜の鼻先でくるくると回ってみせる。

「どうですか? 香りますか?」

 ――ああ。日向ぼっこの香りだな。それも、昔森でしたような優しい香りだ。それにどこか爽やかで甘い香りもする。これは……。

「香料としてオレンジをいれたんです。ロルフ様の箱庭で見つけた……」

 ふふっと得意げに笑うニーナにロルフは竜の姿では抱きしめることも敵わないと少し自分を恨んだ。そんなロルフを知ってか知らずかニーナはまた猫の姿になってその背にぴょんと飛び乗る。竜と猫、今はこちらのほうがいい気がした。思わず神聖な竜に口付けてしまいそうになったからなんていうのは秘密にしておこう。

 竜はまた空を舞った。くるくると赤い月の周りを回ってみたり、雲を掴んでみたり。
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