没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


「ごめんごめん。謝るからそんな顔をしないで」
 アル様は私を膝の上から降ろすともとの席に戻って仕切り直しだというように空になっていたカップにお茶を注いでくれる。
「いつもみたいに僕はシュゼット令嬢といろんな話を楽しくしたいな」
「は、はい。私もアル様といつものように他愛もないお話がしたいです。特に先程のそぼろ状のクッキーについて詳しい意見が聞きたいです」
「いいね。僕個人の意見なんだけど――」
 私は新しいお茶が入ったカップを受け取るとそれを口にしながらお菓子の話に花を咲かせた。





 数日後、バラの花の形をしたリンゴの間にはそぼろ状のクッキー――シュトロイゼルがたっぷりとのったアップルタルトが店頭に並んだ。名札の下には『これは食事のマナーを気にしないためにわざとシュトロイゼルをたくさん使っています』という説明書きを入れている。

 もとからクッキー生地が崩れていることもあり、食事のマナーを恐れていた令嬢たちの間でこのアップルタルトは、気兼ねなく食べられるケーキとして話題になるのだった。

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