没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 思い返してみると男女が出席する晩餐会の席で女性が選ぶお菓子といえば、ムースやフランといった液体を固めたお菓子が多い。パイ生地やクッキー生地、トッピングの多いお菓子は避けられる。
 反対に同性が集まるお茶会の席では食事のマナーはそこまで気にしなくてもいいのでシュークリームやタルトが選ばれやすい。
 同性の前だけでなく異性の前でも堂々と食べられるお菓子があれば楽しむ選択肢は広がる。
 カヌレはムースやフラン寄りの食べやすいお菓子なので粗相は少ない。しかしトッピングで可愛さを演出すれば粗相を起こす可能性を高くしてしまう。かといってこのままの見た目ではお客様からは見向きもされない。

 そこで私はカヌレのサイズを一回り小さくして提供することに決めた。一口サイズの小さなカヌレなら食べこぼす心配もないし、通常サイズのカヌレよりもカリッと感が増して美味しい。多少の堅さは出てしまうけれど、噛みごたえのある食感を楽しめるだろう。
 これはカヌレだからこそできる強みだ。
「分量もオーブンの温度もこれで大丈夫そうね。今度アル様に食べてもらいましょう」
 アル様がカヌレを食べて美味しいと言ってくれる姿を想像していると、不意に背後から聞き慣れない男性の声が聞こえてきた。
「今度は何のお菓子を作っているんだ?」
「……ひゃっ!?」
 驚いた私はぴゃっと跳び上がった。

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