没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~

 彼はエードリヒ・メルゼス。この国唯一の王子で未来の国王となる人物だ。
 年齢は私より二つ上の二十二歳。幼馴染みで小さい頃からよく面倒を見てもらっている。こんなこと口にするのは憚られるけれど、私にとってエードリヒ様は優しい頼れるお兄様みたいな存在だ。


「久しぶりだなシュゼット。元気にしていたか?」
「ええ、元気にしておりました。エードリヒ様も変わらずお元気そうで何よりです」
「婚約破棄の話は侯爵から話を聞いている。……今回のことは残念だったな」

 エードリヒ様が眉尻を下げて沈痛な表情を浮かべてくるので、申し訳ない気持ちになった。私の中でフィリップ様との婚約破棄は消化できているから悲しまないで欲しい。

「お心を痛めないでください。いろいろとありましたが今は(つつが)なく過ごしておりますわ」
 私はこれ以上エードリヒ様が悲しい気持ちにならないよう、別の話題へと話を進めた。
「ところで、いつ首都に戻られたのですか?」

 エードリヒ様は一年ほど前から王宮では暮らしておらず、国内視察で地方を回っている。
 王子として国民の平和と安全を守るために、そして国民がより豊かな生活ができるよう、彼は臣下を使わず身分を隠してその足で問題のある現場を回っているのだ。
 国民の生活向上を第一に掲げて行動しているエードリヒ様を見ていると、メルゼス国の未来は明るいように思う。現に彼が打ち出した政策は次々と成功を収めている。

 まだ王子だというのにその手腕は現国王陛下を凌ぐほどで、将来を有望視されている。

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