没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~

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 もともとこのクッキーは今日の自分へのご褒美に食べようとして焼いていたものだった。
 侯爵令嬢にあるまじき趣味だけれど私はお菓子を作るのが大好きだ。これは今は亡きお母様の趣味が色濃く影響された結果だと思う。

 お母様は男爵家の出身なのだけれど実家は少し前に男爵となった新興貴族だ。もともとは中流階級で商家だったため、お母様は炊事や洗濯、掃除などの家事をメイドと一緒に行っていた。

 特に料理は得意分野で、お父様と結婚してからは料理をしなくなったけれどお菓子作りだけは趣味として続けていたのだ。
 私は小さい頃にお母様からお菓子作りの基礎を教わり、それが趣味として今尚続いている。このクッキーだって私がバターと小麦粉の配合を研究して作ったものだ。

 少年はじっくり味わうようにクッキーを咀嚼するとごくりと呑み込む。その表情は恍惚としていてとても幸せそうだ。

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