没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 私はドキドキする胸を押さえながら書斎にいるお父様に話をしに行った。
 由緒正しいキュール家の当主であり、王室長官を務めているお父様はどちらかと言えば保守的な人間だ。令嬢にあるまじき願いを私から聞かされて必ず難色を示すはずだ。

 否定されることも承知の上で今後の人生計画をお父様に説明すると、意外にもあっさり許可してくださった。
『私が先代プラクトス伯爵と結婚について書面に残していなかったばかりにシュゼットには酷い目に遭わせてしまった。先代は真面目だったのに息子の方はとんだ道楽者だった。シュゼットの若い頃の貴重な時間を無駄にさせてしまって本当に申し訳ないと思っている。だからこれからはおまえの好きにしなさい』
 お父様は私が権利書を黙って隠していたことを咎めなかった上、最後は背中を押してくれた。そればかりか改装費用を捻出してくれた。
 お陰で短期間で準備を整えてお店を開くことができた。


 長年閉めきっていたミューズハウスは最初こそかび臭く、湿っぽくて仕方がなかったけれど隅々まで掃除をして換気することで随分ましになった。
 改装には目いっぱいお金を掛けることはできなかったけれど、壁紙とカーテンを変えてパティスリーらしい雰囲気を演出することはできた。
 店内は水色を基調とした爽やかな装いでショーケースやいくつかの棚、そしてちょっとしたイートインスペースを設けている。イートインスペースは人目をはばからず、ゆったりとした時間を過ごせるよう間仕切りを立てて半個室にした。

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