没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~

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 冷ましている間にケーキのデコレーションを考えることにする。
 やはり最後に残る課題はその見た目だ。エンゲージケーキとなれば可愛さだけでなく豪華さが必要になってくる。
 スポンジケーキの間にクリームを挟み、その表面をゼリー状にしたミックスベリージャムでコーティングするだけでは味気ない見た目になってしまう。
 さらに大きなケーキなので盛り付けに生クリームとアラザン、マカロンを使うだけは限界がある。かと言ってチョコレートをふんだんに使えばそれが邪魔をしてミックスベリーの良さが損なわれてしまう。

 他に方法はないか呻りながら思案しているとネル君がトンと優しく背中を叩いてくれた。
「お嬢様ならきっと大丈夫。だから落ち着いて。ケーキを盛り付けるお嬢様のスミレ色の瞳にはいつだって迷いはないから」
「ありがとうネル君。……うん、とスミレ? スミレ……」
 スミレという単語が頭の中で引っかかる。
 私の足は自然と中庭へと向かっていた。中庭の一角には小さな花壇があって、そこには多種多様のハーブや花を栽培している。

 ミューズハウスの権利書を見つけた時からここでお店を開くと決めた理由は、この小さな花壇も理由の一つに入っている。無農薬の植物を栽培して、将来的に健康思考のお菓子も作れたらと考えていた。
 お店を軌道に乗せるために必死で頑張っていたから当初の目的をすっかり忘れてしまっていたけれど。花壇の植物はラナが世話をしてくれているので青々と茂っている。
「お嬢様?」
 後を追いかけて来たネル君に、私は返事をする代わりに微笑んだ。
「ありがとう。ネル君のお陰で突破口が見つかったわ」
「突破口?」
 きょとんとした表情で尋ねてくるので私は花壇の植物を指さした。

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