没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 くぐもった呻き声が聞こえてくるので誰もが泣いているのだと想像していると、彼女は顔を上げて渇いた声で笑いを始めた。
「あはははは。まさか婚約パーティーの日に捕まるなんて。今日が幸せの一日になると思っていたのにとんだ最悪な一日になってしまったわ。そうよ。私が盗んだの。男爵家が運営する銀行の資産が空になってしまったから、お父様に何とかしろって指示されて行動したのよ」
 すると、招待客の一人が血相を変えてカリナ様に近づき、唾が飛ぶ勢いで問いただす。
「それはどういうことだ? 私はライオット男爵の銀行に資産の半分以上を預けているんだぞ?」
「あらご愁傷様。残念だけどそのお金が戻ってくることは一生ないわ。だって、お客から預かったお金はお父様とお母様がぜーんぶ賭博に使い込んでしまったんだから」
 カリナ様によると近年勢いがあると言われているライオット男爵家の投資話はすべて嘘だった。お金を十年預けるだけで金額が三倍になるという嘘の謳い文句とともに、出資者を募り、彼らからお金をだまし取っていたのだ。
 そのお金は運用されるどころか毎日男爵の遊びの金として湯水の如く消費されていた。

 真実を告白された男爵夫妻は慌てて逃げだそうとするも、すぐに待機していた近衛騎士に捕らえられてしまう。男爵は怒りをカリナ様にぶつけた。
「カリナ! おまえ、実の父親になんて仕打ちをするんだ。この親不孝者が!」
「そうよ、この役立たずのろくでなし!!」
 夫妻から責められるカリナ様はグッと下唇を噛みしめてからキッと二人を睨んだ。
「それならあなたたちは完全に毒親じゃない。私を惨めで不幸にした元凶のくせに自分たちだけ助かるとでも思った? そんなの絶対許さない。許されるわけがない。私が捕まるならあなたたちを道連れにしてやる。……なのに、一人だけ道連れにできない人がいる。それはシュゼット・キュール、あなたよ!」
「え?」
 突然名指しされて私は戸惑った。どうして私の名前が挙がったのか理解できない。
 目を白黒させていると恐ろしいまでに顔を歪めるカリナ様がその理由を語った。

< 223 / 238 >

この作品をシェア

pagetop