没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 思い返してみると、彼との婚約中で一年前は特にやきもきさせられていたような気がする。立派な伯爵夫人になるために毎日夜遅くまで勉学に励み、その後にメイクもファッションの研究もしていた。
 大好きなお菓子作りは我慢していたし、睡眠時間もほとんどなかったような気がする。

 ――生きがいであるお菓子作りを封印して寝る間も惜しんでひたすら頑張っていたら、怖い顔にもなるわね。ラナには悪いことをしてしまったわ。
 当時のことを思い出して申し訳ない気持ちになっているとラナがくすりと笑う。

「ですが今は違います。以前のお嬢様に戻りましたし、毎日とても楽しそうなので私も嬉しいですよう」
「気苦労を掛けさせたみたいでごめんねラナ。婚約中は確かに毎日世界が灰色に見えて仕方がなかったわ。だけどフィリップ様と婚約していたお陰で経営学や経済学なんかのお店を運営していく知識が得られたから。あの数年間は無駄じゃなかったと思うわ」
「我が家のお嬢様は謙虚ですね。私だったらそんな風には絶対に思えないですよう。ところで、もうすぐネル君がお遣い先から帰ってくる頃じゃないですか?」
「本当だわ。ネル君のお茶の準備をするから後は任せても大丈夫かしら?」
「はい。お任せください! まったくもう、ネル君たら贅沢ですよう。彼ったらお嬢様の淹れるお茶じゃないとダメなんですよう」

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