没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 近頃のネル君は私と二人きりの時だと格別甘い言葉を囁いてくるような気がする。懐いてくれているのは嬉しいけど、たまに恋愛的な意味で好かれているんじゃないかと錯覚してしまう。

 ――もしかしたら近所に好きな子がいて、その子に告白するために私を使って練習しているのかも。
 美少年のネル君に告白されたらどんな女の子も絶対に首を縦に振りそうなものだけれど、それについては何も言わなかった。だって、ネル君は本気で好きな子のために尽くそうとしていることがありありと伝わってくるから。
 その努力に水を差す真似なんてできない。
 ――大人な振る舞いをしているのはその子が年上だからかしら? ふふ。ネル君のためなら喜んで練習台になるわ。
 私は心の中でネル君の恋が成就することを祈った。

「……お嬢様? 聞いてますか?」
「うん。約束するわ」

 声を掛けられて我に返った私はこっくりと頷いた。
 それに満足したネル君は私の手を握り直すと破顔する。
「お嬢様、そろそろ中に入りましょう。身体を冷やしたらダメです」
 私はネル君に手を引かれながら厨房へと戻ると、風邪をひかないようお互いタオルで身体を拭いた後、いつものように仕事をこなした。

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