没落令嬢のおかしな運命~餌付けしたら溺愛されるなんて聞いてません!~


 頭の中で何度もお客様の言葉を繰り返していると、ふと一つの疑問が湧いた。
 ――お客様は『やっぱり』って仰っていたけれど、もしかして私のお菓子をどこかで食べたことがあったのかしら? わざわざ足下の悪い中、私のお菓子を求めて訪ねてくれたの?

 雨の中来てくれたこと。一口一口、ミルクレープをじっくり味わいながら食べる姿。うっとりとした表情。
 これらを踏まえて青年が本気で私のお菓子を好きになってくれていることがありありと伝わってくる。彼は正真正銘私のお菓子のファンだ。
 私の心はこれ以上ない幸せに満たされていた。

 うちにお菓子を買いに来るお客様は女性ばかりなので男性ファンがいるなんて思ってもいなかった。

 男子禁制にしているわけではないけれど、彼らが二の足を踏むようなお店の雰囲気を作っていることは確かだ。少し前に家族のお遣いだと言ってケーキを買いに来た男性のお客様がいたけれど、ラナが会計している間ずっと肩身が狭そうだった。

 この青年も誰かにお店に入っていくところを見られるのが恥ずかしかったから、閉店間際に来たのかもしれない。
 商業地区の大通りから一本それているパティスリーの通りは、夕方になると人通りが少なくなる。特に今日は雨のせいで人通りもほとんどなかったのでこっそりお菓子を買いに来るには絶好の機会だったはずだ。

< 67 / 238 >

この作品をシェア

pagetop