クズな王子はお断りします
第二話


◯自宅マンション・リビング



央士「……俺が白蘭学園にいる目的は、逆玉の輿に乗るためだ」

陽夏「ぎゃ、ぎゃくたま?!」

央士「俺は将来安泰するために、社長令嬢を見つける。白蘭学園は社長令嬢や金持ちの子供しかいない。俺にとってこの学校はうってつけだろ?」

陽夏(本当に白蘭学園で人気者のあの王子くん?……にわかには信じられないことを言ってる)


央士「なんだよ、その顔は……」

陽夏「……」


 陽夏は分かりやすく軽蔑の眼差しを向けた。

央士「俺は親父がいなくて、母ちゃんの給料だけでは正直貧乏だった。……俺は金持ちじゃなくて、"大"金持ちになりたいんだ」

陽夏「……」

央士「貧乏人が大金持ちになるなんて、普通に考えて無理ゲーな訳よ。どうしたら手っ取り早く大金持ちになれるか考えたとき……社長令嬢のお婿さんになればいいんだ!って閃いたんだ」

陽夏「……」

央士「俺が目指すものは大金持ちだから、並の社長令嬢だと役不足なんだよ。だからこの学園で、とびきりの金持ち令嬢を探すってわけ」

陽夏「……」

央士「生まれつき良すぎるこの顔面のおかげで、今では学園の王子だぞ?俺の計画通りだ!ははっ!」

陽夏「……」

央士「第一候補は8大財閥の家柄の娘、桜小路かな……逆玉のためなら、爽やか王子を演じるなんて楽勝だったな」

陽夏「……ちょ、ごめん、記憶の中の央士くんとかけ離れすぎてて……受け入れられない」


 陽夏は頭が混乱していた。
 記憶の中の爽やか好青年の央士と目の前のクズな央士が、ギャップがありすぎて受け入れられなかった。


央士「女だって、玉の輿狙うだろ?男が狙って何が悪いんだよ?」


陽夏(あの人気者の王子くんが、こんなクズだったなんて……)

 央士は完全に開き直っている。央士が真顔で言うと変に説得力があるので困る。


央士「このこと、誰かに話したら……わかってるんだろうな?」

 弱みを握っているのは陽夏の方なのに、なぜか強気に迫る央士。


陽夏「……弱みを握ってるのは私なんだよ?……バラされたくなかったら、もっと謙虚にお願いしないとさー?」

央士「お前、これからは専属家政婦として、俺のこと指名しろよ?俺に指名料が入るからな」


 陽夏の話を聞いても尚、強気な態度を崩さない央士。


陽夏「……なっ、するはずないじゃん。人の話聞いてた?なんで私が指名しなきゃいけないのよ。弱みを握ってるのは私なんだよ?」

 言い返す陽夏に詰め寄り、不敵な笑みを浮かべる央士。

央士「……へえ、そんな口の利き方するんだ?」

陽夏「……わ、私の方が央士くんの、よっ、弱みを握ってるんだからね?」

央士「ふーん……俺のこと脅せると思ってんの?」

 不敵に笑う央士。
 いつもの好青年な央士とのギャップに陽夏は戸惑う。


央士「……で?……返事は?まあ、俺に指名しろって言われるなんて光栄なことないし、聞かなくても返事は分かってるけど……」

陽夏「無理!ごめんなさい!」

 陽夏は央士の言葉を遮るように食い気味で被せた。
 央士は陽夏の言葉が信じられないとでも言うように、目を見開いて驚いている。

央士「……え、は?お前、正気か?俺がお願いしてるんだぞ?」

陽夏(いや、いや、央士くんが正気か聞きたいよ)


 央士は陽夏の言葉がいまだに信じられず、放心状態だ。


 何度言っても、受け入れてくれないので、呆れた陽夏は、央士の腕を引っ張り家から追い出そうと、玄関まで連れて行く。

陽夏「本当にごめんね、央士くんが家事代行の仕事やってることや、今聞いたことはみんなには言わないからさ、……今日はありがとうございました」

央士「……いや、お前……」


 言葉を投げかけながら、放心状態の央士くんの背中を押して家から強引に追い出した。


 バタンと閉まる玄関ドアの音と共に、陽夏は大きなため息を吐き出す。


陽夏「はあ、なんだったんだろう。央士くんがあんな人だったなんて……」


 陽夏は今だに胸がドキドキしている。

陽夏(断ったし、家政婦の仕事も違う人を指名すればいいだけの話だよね)


 ――もう関わることはないと思っていた。


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