愛した人は剣奴だったから
1 奴隷との再会
まさか、自分がこんなふうに誰かを好きになるなんて思ってもみなかった。
「アデリア様、見つけましたよ。どうか、心置きなく妊娠して下さいね」
朝、パンにデーツの糖蜜を塗っていると、いきなり、テラスが告げたものだから、パンを喉に詰めそうになる。
「今夜、夜伽をしていただきます。ちょうど妊娠しやすい時期ですね。彼の名前はレンシー。二十六歳だと申しておりました。彼は、戦後にオスベルの王都近くの農園に流れ着いたようですよ」
「あの奴隷は、そういう名前だったのかね、でも、レンシーって珍しい名前よね」
「いいえ、ザトラ三国ではありふれた名前ですよ。沐浴と食事をさせてから寝室に向かわせます。彼には十歳になる妹のヘルワがいたのでございます。ヘルワの世話をすると約束をしましたので余計な予算が嵩んでしまいましたよ。これからは、レンシーはアデリア様の奴隷です。どのように扱っていただいても構いません」
「でも……。どうしたらいいの?」
「寝間での事はレンシーが心得ています。身を任せておけばよろしいのですよ」
こうして彼と会えるのは嬉しいが、未知のものへの期待と不安が入り乱れてしまい昼食も夕食も喉を通らなかった。
フアフアと頼りない感覚になりながらも色々な気持ちが膨らんでいた。夕刻、階下からは竪琴の雅な旋律が微かに聞こえてきた。
(ルミスお姉様はさすがだわ……)
このところ、シルミスは有名な楽師から竪琴を習っている。負けず嫌いの努力家なので師範と遜色が無いほどに上手くなっている。
屋敷は幾つかの棟に分かれており、シルミスは本館で暮らしているのだ。
しばらくすると、薄闇の中、侍女達がしずしずと二階にあるアデリアの寝室に入ってきた。
銅製の丸い卓に焼き菓子や飲み物を置くと優雅に裾を揺らして立ち去っていった。テラスの背後にはレンシーが佇んでいる。
グッと、いささか強引に彼の背中を押し出しながらテラスが低い声で告げた。
「アデリア様、お望みの奴隷をお連れしました。お確かめ下さいませ。間違いありませんわね?」
「ええ、間違いないわ」
ぎこちなく頷くアデリアの声は震えていた。とても恥しいのだ。視線を微妙に逸らしたまま息をこらすようにして揺れる気持ちを抑えていた。彼を前にすると首筋や耳朶が火照ったように熱くなる。
「では、ごゆっくり。レンシー、あとは任せましたよ」
テラスは豪華な四柱の寝台をチラリと見つめながら去ったのだ。部屋の壁や卓には銅製のオイルランプ置き場があるのだが、今宵は、照明の明るさを落としている。
開け放たれた窓からはジャスミンの香りが流れ込み、彼の体からは風呂上りの清潔な匂いが漂う。
「アデリア様、見つけましたよ。どうか、心置きなく妊娠して下さいね」
朝、パンにデーツの糖蜜を塗っていると、いきなり、テラスが告げたものだから、パンを喉に詰めそうになる。
「今夜、夜伽をしていただきます。ちょうど妊娠しやすい時期ですね。彼の名前はレンシー。二十六歳だと申しておりました。彼は、戦後にオスベルの王都近くの農園に流れ着いたようですよ」
「あの奴隷は、そういう名前だったのかね、でも、レンシーって珍しい名前よね」
「いいえ、ザトラ三国ではありふれた名前ですよ。沐浴と食事をさせてから寝室に向かわせます。彼には十歳になる妹のヘルワがいたのでございます。ヘルワの世話をすると約束をしましたので余計な予算が嵩んでしまいましたよ。これからは、レンシーはアデリア様の奴隷です。どのように扱っていただいても構いません」
「でも……。どうしたらいいの?」
「寝間での事はレンシーが心得ています。身を任せておけばよろしいのですよ」
こうして彼と会えるのは嬉しいが、未知のものへの期待と不安が入り乱れてしまい昼食も夕食も喉を通らなかった。
フアフアと頼りない感覚になりながらも色々な気持ちが膨らんでいた。夕刻、階下からは竪琴の雅な旋律が微かに聞こえてきた。
(ルミスお姉様はさすがだわ……)
このところ、シルミスは有名な楽師から竪琴を習っている。負けず嫌いの努力家なので師範と遜色が無いほどに上手くなっている。
屋敷は幾つかの棟に分かれており、シルミスは本館で暮らしているのだ。
しばらくすると、薄闇の中、侍女達がしずしずと二階にあるアデリアの寝室に入ってきた。
銅製の丸い卓に焼き菓子や飲み物を置くと優雅に裾を揺らして立ち去っていった。テラスの背後にはレンシーが佇んでいる。
グッと、いささか強引に彼の背中を押し出しながらテラスが低い声で告げた。
「アデリア様、お望みの奴隷をお連れしました。お確かめ下さいませ。間違いありませんわね?」
「ええ、間違いないわ」
ぎこちなく頷くアデリアの声は震えていた。とても恥しいのだ。視線を微妙に逸らしたまま息をこらすようにして揺れる気持ちを抑えていた。彼を前にすると首筋や耳朶が火照ったように熱くなる。
「では、ごゆっくり。レンシー、あとは任せましたよ」
テラスは豪華な四柱の寝台をチラリと見つめながら去ったのだ。部屋の壁や卓には銅製のオイルランプ置き場があるのだが、今宵は、照明の明るさを落としている。
開け放たれた窓からはジャスミンの香りが流れ込み、彼の体からは風呂上りの清潔な匂いが漂う。
< 1 / 104 >