愛した人は剣奴だったから
「こいつも連れて行くぞ」

「あら、仕方ないわね。今回は特別に許可するわ。本当は戦士以外の者は入れないのよ」

 わざと、そうしているのだろうか。腰や尻を見せびらかすような独特の歩き方があざとい。

 彼女は振り向いて憎らしげに目を眇めていく。

「汚い子供を建物の中に連れて入ってもいいけど、先にお風呂に入れなさいよ」

 さすが有力者に囲われているたけの事はある。妖艶な美貌の持ち主だった。そして、有無を言わせぬ迫力があった。年齢は二十五歳ぐらいだろう。

「わたしは、あなたをもてなすように言われているわ。レンシー、あなたの部屋はここよ」

 アデリアはオドオドしながら片隅に佇んでいたのだが、不意に叱られてビクッとなる。

「汚い子ね。側には来ないで!」

 わざと鼻を押さえている。臭いということを、あからさまに示してアデリアを傷付けようとしている。

「レンシー、今夜、その子は庭の長椅子に寝かせておきなさい」

 水の入った硝子の杯をレンシーに差し出している。喉が渇いているのはアデリアも同じなのに。わざとアデリアを無視しているらしい。

 レンシーは、半分飲んでから残りをアデリアに飲ませるために手渡した。

「こいつを部屋で寝かせたい。オレは外で寝る。この子は主人の持ち物なんだ。大切に扱わなくちゃならない」

「あなたは選手なのよ。明日の試合を前にして風邪をひくと困るわ」

「だったらこうしよう。オレはあんたと一緒に寝る。文句はないだろう? どうせ、そのつもりでここに来たんだからな」

「そうね」 

 爪の先には赤い染料が塗られていた。美しく編みこんだ頭頂部には豪華な髪飾りがつけられている。愛人として贅沢に暮らしている彼女の身体は艶かしさに溢れている。棚には、銀器。蛍硝子のコップ、水差しが並んでいる。先祖から受け継いだ仮面や彫像なども綺麗に飾られている。絹糸の絨毯は華やかで細やかな色彩のもので豪華だった。

 フレスコ画は赤を基調にしている。

 陶酔や眩暈を引き起こすような、そんな艶やかな空間である。

「レンシー、こちらを見なさい」

 ルーダが神棚の女神の像を指さして説明しようとする。

「拳闘の戦士というのはススリア人が信仰する豊穣の女神に捧げる生贄なのよ。負けた者を祭壇に捧げるの。首を切り落として女神への贈り物とするのよ」

 古代のススリア人は人間の心臓や生首を神に捧げていた。オスベル本国において儀式は禁止されているが、ここでは秘密裏に続けられている。

「あなた、どうやらザトラの人間のようね? それでも、拳闘は知っているわよね?」

 男達が公衆浴場や広場で男同士が運動代わりに行なっている。拳に革の紐を巻きつけて互いに殴り合うというのである。

「だいたいの事は分かっているから寝かせてくれないか? 眠くて死にそうだ」
 
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