愛した人は剣奴だったから
10 秘密の館
街の中心地からそう遠くないというのに葡萄畑が広がっている。
丘の頂上にある篝火を目印にして進むと客人を誘導するかのように立派なヴィラの正面入り口の石門が見えてきた。館全体が石の塀で囲まれているようだ。門の入り口は二対の篝火で照らされている。
古代建築を思わせる古風な建物で、それはススリア形式と呼ばれるものである。
この屋敷の訪問者は、列柱廊で囲まれた前庭を通って玄関へと向かうのだ。
呼び鈴を鳴らすと門番の男が脇の小屋から出てきた。居酒屋の女将から受け取って木簡を受け取るとレンシーだけを門扉の奥へと通そうとした。
「ガキは駄目だ。入っていいのは戦士だけだ。おまえはレンシーっていうのか?」
高圧的な声を放つとレンシーを値踏みするように眺め始めた。
「軟弱な顔だな。てめぇはザトラ人なのかよ? 言っておくがな、ここはススリア系の貴族や大富豪をもてなす館なんだぞ。おまえみたいな外国人の若造が入れる場所じゃねぇんだぜ」
アデリアはレンシーの後ろにいたのだが、門番の吐く息がニンニクと酒臭くて鼻が曲がりそうになる。
「金髪のチビ。おまえはオレの部屋の寝台に泊めてやる。おとなしく入って待っていろ。死ぬほど可愛がってやる」
下種びたな表情にクッと顔を上げて震えながらレンシーの背後に隠れたましがみついた。すると、レンシーが一歩前に立ち、アデリアを門番の視線から庇うように告げた。
「触るな。この子も一緒に行くぞ。それがダメなら仕事を断る」
「ふざけるな! 勝手な事を言うんじゃねぇよ。何様のつもりなんだ! 来い、チビ」
後ろにいるアデリアの腕を引こうとする。しかし、レンシーが男の腕を素早く払う。
門番はカッとなってレンシーの顔面に拳をぶちこもうとするか、レンシーはフッと身体を横にズラして軽やかに避ける。
タイミングを外された門番はよろけている。レンシーは、充分に相手を引きつけてから、翻弄するように拳を入れると門番の右頬にぶち当たった。
鼻を折られた門番は血を流して呻いている。それでも、果敢に門番は腕を振り上げて襲い掛かろうとするが、すかさず、レンシーが身体を逸らして門番の懐に入り込み、腰を落とした体勢で腹に拳を入れる。門番は苦悶の形相で腹部を押えて座り込む。
その時、ピリッとした女の声が響いた。
「もういいわよ」
艶やかな装いの若い女が玄関から出てきた。
飾り窓の格子の内側から一部始終を覗いていたらしい。凄い美人だ。これが、噂のルーダなのだと悟った。
「ゴース、あなたの負けよ。腕前を見させていただいたわよ。レンシー、あなたは合格よ。さぁ、遠慮なくお入りなさい」
薄手のドレスの袖口をひらつかせながら手招きしていた。薄暗い玄関には蔦模様を掘り込んだ銀製のランプが下がっている。レンシーが相手を見据えた。
丘の頂上にある篝火を目印にして進むと客人を誘導するかのように立派なヴィラの正面入り口の石門が見えてきた。館全体が石の塀で囲まれているようだ。門の入り口は二対の篝火で照らされている。
古代建築を思わせる古風な建物で、それはススリア形式と呼ばれるものである。
この屋敷の訪問者は、列柱廊で囲まれた前庭を通って玄関へと向かうのだ。
呼び鈴を鳴らすと門番の男が脇の小屋から出てきた。居酒屋の女将から受け取って木簡を受け取るとレンシーだけを門扉の奥へと通そうとした。
「ガキは駄目だ。入っていいのは戦士だけだ。おまえはレンシーっていうのか?」
高圧的な声を放つとレンシーを値踏みするように眺め始めた。
「軟弱な顔だな。てめぇはザトラ人なのかよ? 言っておくがな、ここはススリア系の貴族や大富豪をもてなす館なんだぞ。おまえみたいな外国人の若造が入れる場所じゃねぇんだぜ」
アデリアはレンシーの後ろにいたのだが、門番の吐く息がニンニクと酒臭くて鼻が曲がりそうになる。
「金髪のチビ。おまえはオレの部屋の寝台に泊めてやる。おとなしく入って待っていろ。死ぬほど可愛がってやる」
下種びたな表情にクッと顔を上げて震えながらレンシーの背後に隠れたましがみついた。すると、レンシーが一歩前に立ち、アデリアを門番の視線から庇うように告げた。
「触るな。この子も一緒に行くぞ。それがダメなら仕事を断る」
「ふざけるな! 勝手な事を言うんじゃねぇよ。何様のつもりなんだ! 来い、チビ」
後ろにいるアデリアの腕を引こうとする。しかし、レンシーが男の腕を素早く払う。
門番はカッとなってレンシーの顔面に拳をぶちこもうとするか、レンシーはフッと身体を横にズラして軽やかに避ける。
タイミングを外された門番はよろけている。レンシーは、充分に相手を引きつけてから、翻弄するように拳を入れると門番の右頬にぶち当たった。
鼻を折られた門番は血を流して呻いている。それでも、果敢に門番は腕を振り上げて襲い掛かろうとするが、すかさず、レンシーが身体を逸らして門番の懐に入り込み、腰を落とした体勢で腹に拳を入れる。門番は苦悶の形相で腹部を押えて座り込む。
その時、ピリッとした女の声が響いた。
「もういいわよ」
艶やかな装いの若い女が玄関から出てきた。
飾り窓の格子の内側から一部始終を覗いていたらしい。凄い美人だ。これが、噂のルーダなのだと悟った。
「ゴース、あなたの負けよ。腕前を見させていただいたわよ。レンシー、あなたは合格よ。さぁ、遠慮なくお入りなさい」
薄手のドレスの袖口をひらつかせながら手招きしていた。薄暗い玄関には蔦模様を掘り込んだ銀製のランプが下がっている。レンシーが相手を見据えた。