愛した人は剣奴だったから
11 初体験
 色鮮やかだ。予想した通りである。浴室の装飾は宮殿のように豪奢だった。

 パドの好戦的な性格を反映しているのだろう。軍馬にまたがる異国の裸の女神の勇姿が風呂場の壁一面に大きく描かれている。

 色使いと構図が大胆である。今にも、軍馬と女神が手にしている槍が飛び出して来そうに見える。

「ふぅ、何だか疲れちゃった」

 アデリアは風呂に入ろうとするが脱衣所で困惑していた。居酒屋の女将が胸に巻いてくれた革の帯に困っていた。背中に手が届いていても、結び目をほどくことが出来ない。

「これは誰かに外してもらわなきゃしょうがないわね」

 レンシーに解いてもらおうと考えた。それで浴室を出たのはいいが、何しろ初めて来た家なので方向が分からない。

(あらら、確か、庭にいるって言ってたわよね)

 心細い気持ちで花々が咲き乱れる広い中庭を横切っていく。

 柱廊で囲まれた庭の噴水の水音が微かに響いく中、微かに男女の声が聴こえてくる。そっと近寄り草陰から覗くと男女のシルエットが視界に入ってきた。

 二人は中庭に面した食堂の臥台に横たわっている。

 ルーダがプラムを摘むと、それをレンシーの口へと差し出していく。

 彼は、つまらなさうな面持ちでプラムを頬はっている。レンシーを見つめるルーダ。

 彼女からは匂い立つような艶かしい色気が漂う。豊かな胸や唇を誇示している。

 ずっと寄り添い、彼の太股の根元に手を添えている。

 それを見たアデリアは焦れた様に喉元を小刻みに震わせる。

(何なのよ! レンシーの嘘つき。こんなところで何をやっているのよ? あたしがお風呂に入っている間に、この人と、そういうことをしたかったってこと?)

 小さなランプの明かりの下でルーダがレンシーの唇に自分の唇を押し当てている。

(やだ、そのまま受け入れているの? ルーダのことを気に入ったのかしら……)

 膝頭が錆び付いた様になり動けなかった。全身が強張ってしまい顔が引き攣る。

 彼女は執拗にレンシーの胸元をまさぐっている。彼女の唇が逞しい首筋から臍へと移動する。レンシーは彼女を拒むように顔を逸らす。巧みな愛撫を受けながらもレンシーの態度はそっけないものだった。そんなレンシーの前髪を撫で耳元でそっと何かを囁いたのである。

 その直後、弾かれたようにレンシーが表情を変えた。レンシーの様子がおかしい。狼狽したように首を振り何かを懇願している。すると、彼女がヒステリックに顎を揺らして笑った。

 何かをきっかけに二人の間で何かが変わってしまったらしい。

 彼女の口許には意地悪な愉悦の笑みが広がる。レンシーを試すような狡猾な顔つきになる。レンシーが意を決したようにルーダに口付けた。

 まるで、互いの舌を食べ合っているみたいに見える。

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