愛した人は剣奴だったから
 ガタッ、ゴトンッ。ちょうど石造りの橋桁を渡っており、不安定に箱が揺れている。船に荷を運ぶために、役人や水夫が何か言い合っている声が聞こえてくる。箱の隙間から朝の光りが射し込み、外の様子は細切れの状態で確認することが出来た。

 二人を詰めた大きな箱が船に積み込まれている。船長が錨をあげて出航している。船が岸から離れていることが音で伝わってきた。

 今頃、奴等は、血眼になってパドが所有している客船を探し回っているに違いない。

 白昼堂々と、敵の目を欺いて脱出することに成功したのである。実に爽快な気分だった。

  河を下る貨物船は船底が深く水の抵抗が大きいので進む速度は遅い。

 しかも、旅客専用の船ではないので客人用のスペーがなかった。あれから随分と遠くに来た。もう捕まる心配がないと判断した船長が箱の蓋を開けてくれている。

 ギシッ、ギシッ、船の竜骨が軋む音が続いている

「もう、心配ないぜ。甲板に出てみな。ほうら、いい風が吹いているだろう。ここら辺は牧畜が盛んなんだ」

 髭面の船長の言う通り、太陽は真上にある。ゴミゴミとした街のざわめきは消えている。

 川のせせらぎに耳を澄ませて、涼やかな風に身を任せるのが心地良かった。しはらくの間、アデリア達は舳先に佇んで涼んでいた。

「へーえ。綺麗な牧草地だな。この辺りの景色は故郷に似ているんだな」

 羊や牛の群れを眺めながら、レンシーは猫のように両腕を広げて背筋を伸ばしている。

 川の沿岸の麦畑や牧場などの景色に心が満たされていく。

「ブルーベルの花が綺麗ね。まるで、お花の絨毯のようね」

 緑豊かな河岸にはブルーの小花が溢れている。あの花はオスベルの初夏を彩るものである。

「オレの故郷には海がないんだよ。四方を山で囲まれていて、こういう河があった。羊飼いが多いんだ。羊のチーズが特産品なんだ」

 丘陵地帯の天辺から街へと水道橋が続いている。レンシーはしきりに感心していた。

「それにしても、こんな田舎にも水道橋が伸びているんだな。本当にオスベルの治水の技術は凄いよな。オスベルの技術は凄い。見習うべきところはたくさんあると気付いたよ。ただし、貴婦人が不倫する文化だけは、やっぱり、見習いたくないけどな」

「そうね。オスベルの貴族は不倫するのが当たり前だものね」

 何もかも奴隷に任せているのだ。恋愛意外に、もう何もやることがないので、婦人達は不倫へとひた走る。

(だけど、子育てや家事を自分でやっていたら、毎日、忙しくて大変だろうな)

 けれども、レンシーの為なら頑張れそうな気がするのだ。

 ぼんやりと、アデリアはレンシーと暮らす未来を頭に描いていく

(この人の子供を産むことができたら、きっと、幸せだろうな)

 そんな日が来たらいいのに。

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