愛した人は剣奴だったから
16 南下
日が暮れる前にオスベル最南端の河口の街に辿り着いていた。
海から運ばれてきた穀物を保管する為の倉庫が波止場にズラリと並んでいる。
六角形の人工の港には二百席以上の船が停泊しているという。
アデリア達は、埠頭近くの居酒屋で簡単に食事を済ませてからジク行きの船を捜した。船にはどこに向かうのかを示す旗が掲げられている。
船長に直接交渉をして乗船の許可をもらうのだ。船賃ならたっぷりある、ジク行きの商船を見つけた二人は手続きを済ませてから宿に入った。
港近くの繁華街には、明らかに異国人と分かる船乗りや商人が大勢いる。ここはオスベル南端に位置する最大級の港なのだ。
商人や貴族は仲介人を使うけれど、ツテのない旅人は、直接、船長に話しかけて船に乗せてもらうことになっている。
試合に勝ったおかげで賞金も手に入っている。二人分の船賃を支払うことが出来て良かったと満足していた。
翌日、外洋船の甲板に立ったままオスベルの港を振り返った。
「ここから先は海だな」
「船酔いが心配だわ」
「そうだな。おまえ、河舟で船酔いしていたら、この先、もっと大変だぞ。外洋は波の高いからな。船長によると、十日ほどかかるらしいな」
オスベルからは、鉱石、錫、馬、ビーバーの毛、剣、材木などを輸出している。ジクからは香辛料や香木や奴隷などが運ばれてくる。
ジクは香辛料貿易の海路と陸路を支配下に置いており、シナモンやクローブに乳香がどこから採れるのかを知っているのはジクの限られた一部の商人だけである。
アデリア達は寛いだ様子で話し続けていた。
「ジクは、乾燥地帯にありながらも、大きな河のおかげで小麦の栽培も盛んだ。オスベルのパン籠とも呼ばれているんだよな」
「そうよ。おまけに鉱物資源も豊富なの、だから、昔から、あの国は栄えているのよ。王様は、五人まで妻を持てるのよ」
アデリアたちが乗り込んだ船の甲板の船尾に船室があった。壁の向こう側からは船長や船員達の話し声や笑い声が伝わってきた。
貨物用なので客は数名しか受け入れないという。今回は先客がいなくて良かった。
「船は昼間に航海して日没前に沿岸沖に停泊するんですって」
その言葉の通り、夜になると船は停泊したのだ。
月明かりの夜だった。穏やかな波の音だけが聞こえている。暗闇の中、レンシーが囁くように耳元で問いかけた。
「アデリア、もう寝たか?」
「いいえ、昼寝をしたから、ちっとも眠くないわ」
「そうだよなぁ。オレも、ぜんぜん眠れないんだよな」
硬い寝台から身を起こすと茶目っ気たっぷりに微笑みアデリアの手を引くと甲板に出た。レンシーは右舷の手摺から漆黒の夜に包まれた海を指差している。
その顔は子供のようにキラキラしている。
海から運ばれてきた穀物を保管する為の倉庫が波止場にズラリと並んでいる。
六角形の人工の港には二百席以上の船が停泊しているという。
アデリア達は、埠頭近くの居酒屋で簡単に食事を済ませてからジク行きの船を捜した。船にはどこに向かうのかを示す旗が掲げられている。
船長に直接交渉をして乗船の許可をもらうのだ。船賃ならたっぷりある、ジク行きの商船を見つけた二人は手続きを済ませてから宿に入った。
港近くの繁華街には、明らかに異国人と分かる船乗りや商人が大勢いる。ここはオスベル南端に位置する最大級の港なのだ。
商人や貴族は仲介人を使うけれど、ツテのない旅人は、直接、船長に話しかけて船に乗せてもらうことになっている。
試合に勝ったおかげで賞金も手に入っている。二人分の船賃を支払うことが出来て良かったと満足していた。
翌日、外洋船の甲板に立ったままオスベルの港を振り返った。
「ここから先は海だな」
「船酔いが心配だわ」
「そうだな。おまえ、河舟で船酔いしていたら、この先、もっと大変だぞ。外洋は波の高いからな。船長によると、十日ほどかかるらしいな」
オスベルからは、鉱石、錫、馬、ビーバーの毛、剣、材木などを輸出している。ジクからは香辛料や香木や奴隷などが運ばれてくる。
ジクは香辛料貿易の海路と陸路を支配下に置いており、シナモンやクローブに乳香がどこから採れるのかを知っているのはジクの限られた一部の商人だけである。
アデリア達は寛いだ様子で話し続けていた。
「ジクは、乾燥地帯にありながらも、大きな河のおかげで小麦の栽培も盛んだ。オスベルのパン籠とも呼ばれているんだよな」
「そうよ。おまけに鉱物資源も豊富なの、だから、昔から、あの国は栄えているのよ。王様は、五人まで妻を持てるのよ」
アデリアたちが乗り込んだ船の甲板の船尾に船室があった。壁の向こう側からは船長や船員達の話し声や笑い声が伝わってきた。
貨物用なので客は数名しか受け入れないという。今回は先客がいなくて良かった。
「船は昼間に航海して日没前に沿岸沖に停泊するんですって」
その言葉の通り、夜になると船は停泊したのだ。
月明かりの夜だった。穏やかな波の音だけが聞こえている。暗闇の中、レンシーが囁くように耳元で問いかけた。
「アデリア、もう寝たか?」
「いいえ、昼寝をしたから、ちっとも眠くないわ」
「そうだよなぁ。オレも、ぜんぜん眠れないんだよな」
硬い寝台から身を起こすと茶目っ気たっぷりに微笑みアデリアの手を引くと甲板に出た。レンシーは右舷の手摺から漆黒の夜に包まれた海を指差している。
その顔は子供のようにキラキラしている。