見知らぬ彼に囚われて
 彼女が目を覚ますとすでに窓の外は明るく、朝になっていた。


 部屋の戸が開く。
 そこに立っていたのは、昨日の男よりもさらに年老いた老年の男だった。

「……逃げ出そうとしたのではないだろうね?」

 しわがれた声に、真剣な眼差しでこちらを見ている。

「誰!?」

 リーナは思わず自分に掛けられていた毛布ごと飛び起きる。
 自分に巻きつけられていた縄は解かれていたが、身体はまだふらつき昨日の疲れがまだ残っている様子。

「……私を忘れたのかい?二日前の晩は可愛がってやっただろう? 昨晩は力尽きた君で愉しませてもらったよ」

 よく見れば、昨日の男が一晩のうちに老け込んだのだと分かった。
 寝ていた自分に触れたと言った男に対する怒りはあるが、それ以上に不審なのはその姿。

「貴方……なぜそんな姿に?」

 いぶかしがる彼女に、男は乾いたように笑う。

「……君が力尽きて眠っていて、私が身体を奪う際に嫌がらなかったからだろう」

「どういう意味……?」

「……君が情事の際に嫌がらなければ、私は老け込んでいく。私は嫌がる君とのほうがいいのさ。昨晩は君が私に、眠ったまま喜んで身体を差し出したのだろう?」

「そんな……そんなはず……」

 男は何も言えずにいる彼女に近付き、抱き締めた。

「……その身体を抱かせておくれ、リーナ」

 またも自分を翻弄する男。しかし昨晩よりもなぜだか弱々しく感じる。
 リーナは驚きと戸惑いを見せないよう勢いよく言い返した。

「っ、ふざけないで! 愛してもいない貴方に、喜んで差し出すはずがないでしょう!?」

 聞いた男はまた乾いたように笑い、彼女に口付ける。

「これでいい……。さあ食事の前の支度をしよう、リーナ」
< 10 / 17 >

この作品をシェア

pagetop