見知らぬ彼に囚われて
眠る二人のもとに、黒い闇に包まれた異形の者が姿を現した。
灰色の肌、長細い顔に尖り耳まで裂けた口。ギラリと光る眼をしており、曲がった角が頭から覗く。身体に巻き付いたボロキレからは骨ばった手足が伸びている。
男は現れたその気配に目を覚まし、彼女を起こさぬよう起き出す。
「良い演技だったじゃないか。舞台に立たせておきたいほどの出来栄えだ」
異形はわざとらしく男に向かって大袈裟に拍手を送る。
「“契約”のせいで、ここまで欲望を抑えられなくなるなんて……。彼女は助かったんだ、“約束のもの”も渡しただろう?」
男はそう言い、眠る彼女のすぐそばにつきながら異形に不審な表情を向けた。
「『私は“悪魔”だ』、か。“シナリオ”の方は少々無理があったのではないか? いくら彼女に同情されないためとはいえ、なあ」
異形は言いながら、裂けた口をさらにニイッと上げニヤニヤと笑う。
「何をしに来た! まだ代償に私から何かを奪っていくのか!?」
男が激怒のままそう問うと、異形はサラリと答える。
「ああ、あれだけでは足りないな。このままではもうすぐ彼女は……」
「何だって!?」
男は面食らったように呆然と立ち尽くした。
「彼女の初めてを奪えて良い思いはしただろう。それにお前の“アレ”は、一時的な契約分だ。彼女を助けるには俺に彼女を差し出すか、もしくは……」
異形はまたニヤリと裂けた口をニイッと上げ、続ける。
「……今度は継続を約束してやる。その代わりに次も“二つ”だ。彼女を、助けたいだろう……?」
異形にそのまま詳しい提案をされた男はしばらく黙って下を向いていたが、やがて操られるように小さく頷いた。
灰色の肌、長細い顔に尖り耳まで裂けた口。ギラリと光る眼をしており、曲がった角が頭から覗く。身体に巻き付いたボロキレからは骨ばった手足が伸びている。
男は現れたその気配に目を覚まし、彼女を起こさぬよう起き出す。
「良い演技だったじゃないか。舞台に立たせておきたいほどの出来栄えだ」
異形はわざとらしく男に向かって大袈裟に拍手を送る。
「“契約”のせいで、ここまで欲望を抑えられなくなるなんて……。彼女は助かったんだ、“約束のもの”も渡しただろう?」
男はそう言い、眠る彼女のすぐそばにつきながら異形に不審な表情を向けた。
「『私は“悪魔”だ』、か。“シナリオ”の方は少々無理があったのではないか? いくら彼女に同情されないためとはいえ、なあ」
異形は言いながら、裂けた口をさらにニイッと上げニヤニヤと笑う。
「何をしに来た! まだ代償に私から何かを奪っていくのか!?」
男が激怒のままそう問うと、異形はサラリと答える。
「ああ、あれだけでは足りないな。このままではもうすぐ彼女は……」
「何だって!?」
男は面食らったように呆然と立ち尽くした。
「彼女の初めてを奪えて良い思いはしただろう。それにお前の“アレ”は、一時的な契約分だ。彼女を助けるには俺に彼女を差し出すか、もしくは……」
異形はまたニヤリと裂けた口をニイッと上げ、続ける。
「……今度は継続を約束してやる。その代わりに次も“二つ”だ。彼女を、助けたいだろう……?」
異形にそのまま詳しい提案をされた男はしばらく黙って下を向いていたが、やがて操られるように小さく頷いた。