見知らぬ彼に囚われて

「あ、貴方が……貴方がこんなことをしなければ、すぐにでも思い出すことくらいっ……
「それは無理というものだ。君の失った記憶が戻ることはない、私が命を落とさない限り」

　全てを言い終わらないうちに否定され、男は追い打ちを掛けるように彼女を逃さぬよう抱き締めてから耳元で囁きかける。

「……君は私のものになるために全てを失った。身も心も私のものとなり、私のもとで尽くせ。いま何も思い出せない君に、できることはそれくらいだろう？」

　彼女は呆然とし、自分の頬を優しく撫で上げ続ける男のされるがままになった。

　記憶が戻らない限り、自分には本当に帰る場所もわからない。
　もし本当に男の言った通りだとしたら……

　彼女は全てを諦めようとし、男をじっと見据える。

「…分かったわ。その代わり、もし私の記憶が戻り貴方の言ったことが嘘だったとしたら貴方の命を。私を好きにしたいのなら、そのくらいのことは約束して」

　男は少しのあいだ下を向いた後、すぐに顔を上げ穏やかに笑った。

「約束しよう、リーナ。さあ、着替えておいで」

　男が席を外し、リーナは言われた場所に用意された服を見ると一着の上質なワンピースが用意されていた。


　支度を終えた彼女を見て、しばらくして戻ってきた男は楽しげに笑う。

「良く似合っているよ、リーナ。先ほどの寝間着姿も愛らしかった」

　自分の状況も考えず軽口を叩かれたように感じた彼女は、男にぶつけるように言い放った。

「そんなことを言うなんて、最低よ！」

　すると男はいきなり彼女を抱き締め、耳元で囁きかける。

「……何とでも言いなさい。君は私のそばを離れさえしなければいい。それとも、ここを逃げ出すために私を殺すかね？」