見知らぬ彼に囚われて
 翌朝になり、リーナは自分が縄を解かれ直されたベッドに寝ていることに気付く。

 自分にとって見知らぬ男に身体を奪われてしまった。これも、何も思い出せず言い返すことができなかった自分のせい。

 何も出来なかった悔しさの中、彼女はそう自分に言い聞かせた。

 しかしあの初老の男は、男自身が死なない限り自分は思い出すことができないと言った。

 やはりまだ何も思い出せない。
 自分が何者なのかも、そしてあの男が何者なのかすらも。

 あの様子では、男が本当のことを教えてくれるとは思えなかった。

 自分の身体が動くようになり、なんとか逃げ出そうと部屋の扉を開けようとするが、やはり鍵がかかっているようで開かない。
 窓すらも、外側から打ち付けられているらしく開くことはなかった。


「そんなにここを出ていきたいかい?それはそうか、私が憎いだろう。それでいい……」

 いつの間にか部屋に入ってきていた初老の男。

「いい加減にして!! 貴方は何者なの、人間ではないの!? 私をここへ監禁したうえ、行為を強いるなんて! 私の記憶を戻して、解放して!!」

 すると男は彼女にしばし背を向け、すぐに向き戻った。

「……私はこの家の主人。売られていた君を気に入り買い上げた。私は“悪魔”だ」

 目の前の男はどうみても人間に見える。
 しかし自分を手に入れるために全てを忘れさせたと言っていた。

 本当に人間では無いのかもしれないと思った瞬間、彼女は芽生えた恐怖に怯え懸命に抑えた震える声のまま尋ねる。

「……私を監禁して、何をする気なの?」

「言ったはずだよ、私の相手だ。私が死ぬまでね」

 その言葉とともに余裕そうだった男の笑みが陰り、リーナはなぜか思わず言葉を失くした。
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