『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

「幸せに満ち溢れていた先輩が、みるみるうちにボロボロになって」
「っ……」
「そんな先輩をずっと見てて、もっとボロボロになればいいって思いました」
「……酷い」
「だってそしたら、……俺が癒してあげれるじゃないですか」
「っ……、馬鹿じゃないの?」
「馬鹿ですよ、男なんて。好きな女を独占したいし、いつだって欲を満たしたい生き物なんで」

―――――『満たす』
あの人も同じことを言ってた。

私には、誰かを満たすことはできない。
何が満たすモノなのか。
どうしたら満たしてあげれるのか。
一年経った今でも、分からない。

ぽろりと涙が零れ落ちた。

「何か、思い出したんですね」

優しい声音で囁きながら、頬に伝う涙を拭う彼。
その手が、凄く温かくて。
僅かに微笑む瞳が、優しくて。

五つも年下なのに、癒されてる気がする。
人として、欠けている部分を……。

「怒ってる先輩は凄くセクシーですけど」
「なっ…」
「泣いてる先輩は、もっとセクシーです」
「っ……」

緩やかに口角が持ち上がる。
不敵に微笑むその顔は、男の色香が孕んでいて…。

「慰めて欲しいですか?」

狡い。
心に傷を負っている私を、更に追い詰めるみたいにして。
逃げる理由も、逸らす気力も。
いとも簡単に奪ってゆく。

「―――――――ん」

警告アラームが鳴り響いてるのに。
何度もそのボタンを押してるはずなのに。

心から溢れ出す寂しさが抑えられない。

「素直な先輩、かわいいです」

指先で涙を拭った彼に、優しく抱き締められた。

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