『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました
俺にしとけよ

「あぁ~、気が重~い」
「けど、まさかあのワンコちゃんがねぇ~」

駅で待ち合わせして、女性専用車両で通勤中。

私の隣りで話し相手になってくれているのは、同期入社の松雪(まつゆき) 和沙(かずさ)(三十歳)。
四年前に結婚し、翌年に女の子(寧々(ねね))の出産を機に退社したが、去年離婚し、復職した。
和沙はウェブデザイナーとしての技術が高く、デザイン企画部の須藤(すどう)康生(こうせい)部長(四十二歳)から全幅の信頼を得ている。

親友であり、飲み友達であり、戦友であり。
部下の市くん(市川)と麻里(市くんの妻)と和沙と私の四人でよく食事をしたり、飲みに行ったりする。

昨夜のうちに八神くんとの経緯をメールで伝えていたこともあり、朝からその話題で頭が痛い。

八神くんは見た目クリーミー系ワンコで、愛嬌もあり明るく人懐っこい性格だから、社内の女子社員に人気がある。

「誰にでも愛想よくしてたけど、特に璃子には忠実だったもんねぇ~」
「それは、上司と部下だからでしょ」
「それだけとは言いきれないでしょ」

和沙はサバサバしている性格で、恋愛経験も豊富なこともあって相談し易いし、凄く馬が合う。
元彼と破談になった時も、包み隠さず話したくらいだ。
……あんな、人には言えないような事であっても。

「見た目は◎だしさ、仕事も◎だし、家柄も良さそうなんでしょ?」
「……詳しくは分からないけど、たぶん」
「じゃあ、試しに付き合うのもアリじゃない?」
「え?」
「後は愛情が湧くかどうかが決めるポイントになるだろうから、相性を確かめたらいいだけのことでしょ」
「………」

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