『執愛婚』~クリーミー系ワンコな部下がアブナイ男に豹変しました

「今日はもう帰って」
「やだ」
「後は一人で出来るから」
「強がんなくていいのに」
「煩いっ」
「もう俺のこと“好きだ”って認めなよ」
「っ……」

完全に見透かされてる。
もう認めるしかなさそうだよ……。

だって、出先で足に激痛が走った時に一番最初に思い浮かんだのは“八神くん”だった。

ただ、就業中だということが、その一線を辛うじて封じたようなもの。
それが、あんなにも慌てて駆けつけてくれたら、そりゃあ揺れ動く心が全部持ってかれるなんて簡単だよ。

「もし、……好きだって認めたら、どうなるの?」
「え?」
「何かが変わるの?」
「……ん、変わる。確実に…」
「………何が変わるの?」
「さぁ、何だろうね?」
「何それ」
「認めたら、教えてあげるよ」

彼に言い寄る女の子を牽制できる?
それは無理じゃない?
相手が私じゃ、若い子達は諦めないでしょ。

「璃子さんの仕事を邪魔するような真似は絶対しないから、俺」
「……ん」

八神くんはいつだって、私が仕事を優先できるようにフォローしてくれる。
彼にだって仕事はあるのに。

「そう言えば、二月十二日って何の日?」
「……秘密」
「え?」

一瞬ハッとした表情をして、視線を泳がせた。

「何の日なの?」
「……俺のこと、好きだって認めたら教えます」
「狡いっ」
「いやいや、璃子さんの方がえげつなく狡いですよ?」
「っ……」

こういう駆け引きは苦手なのに。

「じゃあ、璃子さんからキスしてくれたら、教えますよ?」
「っ……」

この子、相当なやり手だ。

物凄く楽しそうに身構える彼のジャケットの襟を掴んで引き寄せた。
もう……ギブアップだよ。
触れるだけのキスをしたはずなのに、いとも簡単に舌が滑り込んで来た。

「んっ……っ…」

やっとの思いで離された唇。
呼吸を整えていると。

「一昨年の二月十二日に、最終面接で初めて璃子さんに会った日です」
「ッ?!!」

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