若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 ラントシャフトからホーネージュに到着するまで、時間はたっぷりとあったから。
 その間に、互いにすれ違っていたことは確認済みだ。
 ジョンズワートがカレンを大事にしているつもりだったこと。カレンに嫌われていると思い込んでいたこと。
 カレンも、責任を取るなんて形で結婚させたくなかったこと、これ以上ジョンズワートを縛りたくなくて逃げたことなどを、しっかり伝え合っている。



 ジョンズワートは、カレンの肩を抱く手に、少しだけ力を込めた。
 自分がここにいることが。今、一緒にいることが。彼女にしっかり伝わるように。

「遅くなってしまったけど、やり直そう」
「……はい。ワート様」

 カレンにも、ジョンズワートの温もりが、存在が、しっかり伝わっていた。
 二人は、この先。こうして寄り添い合って進んでいくのだろう。
 カレンの瞳からは、さきほどとは違う理由で涙が出そうになる。
 色々あったけれど、今のカレンは、幸福だった。
 彼とともにいられるこの時間を、噛みしめていた。
 それはジョンズワートも同じであるのだが――

「……ということで、カレン。僕はもう、怯えて逃げるのはやめるから。きみが好きだってしっかり伝えていくよ」
「は、はい……」

 そう言うジョンズワートは、それはもうにっこにこで。
 カレンに頬ずりしながら、髪を撫でている。可愛い、可愛い、好き、という言葉つきだ。
 この変わりっぷりには、奥様のカレンもたじたじで。
 でも、逃げはしなかった。だって、ジョンズワートに触られることが、愛されることが、とても嬉しいのだから。

 カレンは、思う。
 この表情、行動、態度で。
 愛されていないとか、責任を取るためだけの結婚だとか、思えるわけがない。

 にっこにこのジョンズワートに撫でられて、顔を真っ赤にするカレン。
 手は膝におき、やや硬直気味だ。
 4年前には自分に触れもしなかった旦那様に愛され過ぎて、奥様は絶賛戸惑い中。
< 125 / 210 >

この作品をシェア

pagetop