若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「あなたは、どこまでいっても奥様の従者なのね」
「俺の主人は、旦那様でも、デュライト家でも、アーネスト家でもない。お嬢だからな。それから、お嬢のお子さん」
「……あなたが奥様に助けられたことは、私も少し知っているわ。でも、あなた自身はいいの?」
「俺?」
「あなた自身の、人生」
「……お嬢に仕えることが、俺の人生だよ。それに、あんたも人のこと言えないだろ?」
「……まあ、それもそうね」

 男爵家に生まれたサラは、10代の頃からデュライト公爵家で働いている。
 ジョンズワートと同い年だから、27歳だ。
 奥様が見つかるまで結婚しないなんて言っていたら、4年も経過していた。

 元々はジョンズワートの妹の侍女であったサラは、ジョンズワートがどれだけカレンを求めているかを知っていた。
 二度目の求婚の前など、どうしたらカレンに受け入れてもらえるだろうかと相談を受けたぐらいだ。
 それ以前から、ジョンズワートがカレンカレン、カレンに会いたい、と繰り返していたものだから。
 正直なところを言えば、サラはそんなジョンズワートが若干うっとうしくなっていたし、あまりの執着にやや引いていた。
 8年もろくに会話していない人を相手に、この執着である。この人は大丈夫なのかと心配もしたぐらいだ。

 求婚の際、「ずっと前から好きだ」とはっきり言えばいい。そう助言したのもサラである。
 だから、カレンがジョンズワートと婚約したときはもう大喜びで。
 サラはようやく、ジョンズワートのカレンカレンカレンカレンから解放されたのである。
 カレンの侍女となったとき、カレンを頼むと強く言われたのも本当で。
 ジョンズワートの想いの強さを知っていたから、侍女になることを快く引き受けたし、二人のことを心から応援していた。
 
 だからといって、奥様が戻るまで結婚しない、は言いすぎたかもしれない。
 自分の人生はどうなんだ、なんて、サラが言えることでもなかった。

「……仕える立場も大変よね」
「本当にな」

 そう言って、二人は笑い合う。
 そこには、主人に対する呆れが含まれていた。そして、こんな面倒な主人に仕え続ける、自分に対する呆れも。
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