若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「さ、三人で! 三人で一緒に行きたいのです! 私の故郷のお祭りを、ショーンにも見て欲しくて!」
「あ、ああ、そうだよね。三人で、だよね」

 ジョンズワートもまた、三人、三人だよね、と三人一緒であることを何度も繰り返していた。

 過去の恐怖を思い出してしまったジョンズワートも、思い出させるようなことをしてしまったカレンも、まだ心臓が変な動き方をしている。
 少しの沈黙ののち。

「前とは、違うんだよね」

 ジョンズワートが静かに、確かめるようにそう言った。

「……はい。もう、あなたの前から姿を消したりしません。三人で、一緒に……。家族揃って、行きましょう?」
「うん。楽しみだな。きっとショーンも喜ぶよ」
「ええ。アーネスト領の雪まつりは盛大なものですから、きっと大はしゃぎですよ」

 そのあとは、雪まつりに行くならアーネスト家にも顔を出そう、どの日にどんな催しが行われるのか確認しよう、と話したり。
 まだ十代だったころ、二人で行ったよねと思い出話をしたり。
 先ほどまでの凍った空気が嘘だったかのように、和やかに会話が進んでいく。
 
 アーネスト領の雪まつり。
 過去には、カレンがジョンズワートに「さようなら」を告げるために使われた催しであるが……。
 今度はきっと、楽しい思い出になる。
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