若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
「っ……! ごめ、ごめんなさい。ワート様。私、あなたのこと、ずっと、傷つけて」
「……カレン。それはお互い様だよ。どちらも悪かったんだ」

 ジョンズワートは、そっとカレンを抱き寄せる。
 夫の胸で泣く妻と、そんな妻を抱きしめ続ける夫。
 しばらく経って落ち着いた頃、ジョンズワートはあらためてカレンに向き直った。

「カレン。もう一度、受け取ってくれるかな」
「……はい! もう二度と、離したりしません」

 結婚から逃亡までの、短い期間に贈られたそれは、数年の時を経て、再びジョンズワートからカレンに手渡された。
 もう離さないと言って微笑む彼女の頬には、涙のあとが残っていた。

 諦めないでいてくれたこと。今も愛してくれること。
 あなたの想いも、今までのことも、間違えたことも。
 もう一度、やり直せたことも。
 ……この先も。
 全部全部、胸に抱いて。あなたの隣で生きていく。

「ワート様。……ありがとう。ありがとう、ございます」

 彼に伝えたいことは、もっともっとたくさんあるはずなのに。
 ありがとう、と口にするだけで、精一杯だった。
< 185 / 210 >

この作品をシェア

pagetop