若き公爵の子を授かった夫人は、愛する夫のために逃げ出した。 一方公爵様は、妻死亡説が流れようとも諦めません!
 そんな折。話があるからと、カレンは父親の執務室に呼び出された。
 親子仲は良好な方で、会話も多い。だから、父と話すことも、呼び出されることも珍しくはなかったが……。
 執務室という場所と、父のまとう雰囲気が、いつもとは違うなにかを感じさせた。

「お父様、お話とは……?」
「カレン。お前との結婚を望む人がいる」
「いきなり結婚、ですか? あの、私、縁談を進めたい方が」

 段階を踏まず、急に結婚だなんて。一体どこの誰なのだろう。
 婚約や結婚に関しては、カレンも父に話したいことがあった。
 まだ話が生きている男性との縁談を進めたい。そう伝えたかったのだが。
 父であるアーネスト伯爵により、カレンの言葉はさえぎられた。

「デュライト公爵だよ」
「……え?」
「お前を妻に迎えたいと言ってきたのは、デュライト公爵だ」
「え、ええと……。デュライト公爵といいますと……」

 話の内容が、わかるけど、わからなかった。
 デュライト公爵が自分との結婚を望んでいる。それは理解できた。
 デュライト公爵といえば、今はジョンズワートのことを指す。
 ジョンズワートが、カレンに結婚を申し込んできたわけだ。
 だが、ジョンズワートがそうする理由がわからなかった。
 カレンの混乱を感じ取ったのだろう。父はなるべく聞き取りやすいよう、ゆっくりと言葉を続けた。

「ジョンズワート様だよ。ジョンズワート・デュライト。幼い頃、よくしてもらっただろう」
「じょんず、わーとさま……」
「ああ。ジョンズワート様が、お前との結婚を望んでいる」
「ど、どうしてです? ジョンズワート様には、大切な方がいらっしゃるのでは……?」
「……それは、ただの噂にすぎない。ジョンズワート様ご本人から、気持ちを聞いてくるといい」

 そう言われてしまったら、カレンは黙る他なく。
 父は、ジョンズワートが何を考えているのか知っているのだろうか。
 それすらも、カレンにはわからなかったが――質問をしたところで、同じ答えしか返ってこないことは、なんとなく感じとれた。
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