私たちの復讐法

第二話

「なんて素敵な人だ」

と一言と一緒に彼に微笑まれた。
私は心の中でガッツポーズした。飛び上がるほどだ。頭の中の空想の花畑の中で駆けずり回りゴロゴロと嬉しさを表現したい。そして叫びたい。私はこの世で一番な幸せ、大絶頂。ああ、嬉しい。とにかく嬉しい!


だがその花畑は一瞬に消え去る。なぜなら……同じ空間に沢山の女の人たちがいたからだ。それはわかってたけどすっかり忘れていた、忘れ去っていたのに。

彼女らの目線が刺さる、痛い……。無数の視線に刺されるのはこれが初めてかもしれない。

ここはとある豪邸の庭園。女たち以外に無数のスタッフや撮影機材。照明もたくさんだ。

「はい、では次に行きましょう」
「わかりました……じゃあね」
彼が近くにいるカメラマンやスタッフに微笑んで控え室に行ってしまった。

「では女性出演者の皆さんはしばらくお待ちください」
髭の生えたおじさんはその現場の監督である。カメラマンやスタッフたちも休憩や撮影準備など各々動く。
どうすればいいのだろう、立ち尽くしてしまった。

そう、わたしはこの周りにいる女たちとともに彼を奪い合う婚活バラエティに参加したのだ。そうでないと彼と会うことができなかった。

書類審査、面接5回。こんなのは就職試験以来だったけど……とにかく必死で。次に次に進むたびに彼に会えるまでの距離が近くなるって感じがした。
変なこと言ってないかな、こんな私でもいいかなあって。不安になりながらも無我夢中で登りつめ……そしてようやくようやく、彼に出会えた。

でもこの女の集団の中の1人。意外とたくさん選ばれたものだ。美人もいればそうでない人もいる。
ああ、基準はなんなのか。でも私は選ばれたんだから……。自信持たなきゃ。
スタッフたちが選んだ私たちだけど……最終的には彼が選ぶのだ。

この様子はネット放送で流れる。最初はそれは恥ずかしいと思ったし周りの人たちには伝えてなかったし……どうしようかと思ったけど彼に会えるなら、それに私の年齢的にもこういうのに出てもおかしくないだろう、放送はだいぶあとだけどそれまでは口外してはいけないけど放送されたら驚かれるだろう。でもそれは構わない。

私たち女たちは彼に認められたくて、愛されたくて、彼のただ1人になりたくて自分をアピールをし、自分をさらけ出し、中には度がいきすぎて、欲が出まくって他の人を蹴落とすような言動をしてまでも彼に認められよう、と今思えば醜い争いだった。

ネットでもあーだこーだ言われたし、わたしもそうだった。

29歳のババァの行き遅れ

そんなあだ名をつけられてから負のレッテルがついてしまった。最悪だ。

そう、他の子たちは20代前半が多く、1人40代の女社長もいたが彼女も容姿端麗で育ちも良く好評だった。それに比べて私は……。
ダメだ、比べちゃダメだって思ってたのに。

やはり家族や周りにもああ、恥ずかしいと言われたけどもテレビを通して見た私が少しずつ成長していくのには感心、感動したと言われた。

親もベタ褒め……親バカだ。

それに親や周りに褒められたいのではなくもちろん彼に認められたかったの。

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