新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
明良さん。本当に優しい。明良さんに話して良かった。
「はい。ありが……とうございます」
「ちょ、ちょっと、陽子ちゃん? 泣かないで。お、俺、何か酷いこと言っちゃった?」
「そうじゃないんです。そうじゃ……。気になっていたんですけれど、どうしたいいのか分からなくて、凄く不安だったので私……それで……」
「陽子ちゃん……」
泣いている私を、そっと明良さんが抱きしめた。
「ごめんなさい。私……本当に……すみま……せん」
「あ、あ、あっ。も、もう分かったから。お願いだから、それ以上泣かないで。分かったから」
その時、鍵を開ける音がして直ぐに玄関のドアが開いた。
「ただいま」
「お邪魔します」
ハッ!
「えらいこっちゃ」
慌てて明良さんが私を離して素早く調理台の方を向いたので、私も急いで涙を拭っているところに、高橋さんがキッチンに入ってきてしまった。
「お、お帰り」
「……」
「お、お、お、お帰りなさい」
「……」
「み、道空いてたんだ。早かったね」
明良さんが、何時になく焦っているのが分かる。
でも、それ以上に高橋さんの視線を痛いほど感じている。
「お前。何、泣いてる?」
「えっ? そ、それは、その……」
どうしよう。
まさか、高橋さんのことを明良さんに相談してました……なんて言えない。
「明良。何した?」
エッ……。
高橋さん?
「はい? お、俺は何もしてない。無実だ」
明良さんは、わざと胸を張って両手を腰にあててみせた。
「あ、あの……何でもないんです。勝手に、私が……その……」
「……」
高橋さんに上手く取り繕うとしたが、ジッと見られてしまい、まるで見透かされているようで話している途中からフェードアウトしてしまった。
「武田君。女の子を泣かせたとあっては、それ、説明不足なんじゃない?」
「仁さん……」
「こんにちは」
「こ、こんにちは」
< 25 / 311 >

この作品をシェア

pagetop