新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「私が、どうこう出来る問題じゃないんですけれど、でも……でも何だか高橋さんが、あれじゃ可哀想で」
「貴博が、可哀想?」
「はい。取締役の人達に、寄ってたかって罵声を浴びせられたり誹謗されたりしていて」
「罵声に誹謗? また、穏やかじゃないね」
「そうなんです。高橋さんは、一生懸命会社のためを思ってやっているのに、それを頭から否定したりまだ入社して間がないのに……みたいな言われ方をして馬鹿にされたりしていて、それが1度じゃないらしいと他の人から聞いたので。もう私、それが許せなくて、悔しくて。それに、高橋さんが会議の前に、 『これから、俺は道化師に成り切る』 なんて言っていたので、それが何だか分からなくて」
「道化師に成り切る?」
「はい。そうなんです。でも、もしかしたら、それはそのバッシングを一斉に浴びることだったのかと思えてきてしまって。それだったら、尚更、分かっていてそこに飛び込んでいく高橋さんの気持ちを思うと悔しくて。でも、それとはまた違うのかな? とか、色々考えてしまって。だけど、高橋さんには面と向かって聞けないし……」
「陽子ちゃん……」
ハッ!
「す、すみません。ごめんなさい、明良さん。つい……なんか、その、愚痴みたいになっちゃって」
「いや、嬉しいよ」
エッ……。
「陽子ちゃんが話してくれて、寧ろ嬉しいよ」
嬉しい?
「だって、そうじゃない。貴博に言えないことを、俺に話してくれたんだからさ」
「明良さん……」
「貴博に勝った-! って、感じ。ハハハッ……」
「アハハッ……」
明良さん。
会社のことで、全く関係ない明良さんに愚痴をこぼして1人で捲し立ててしまったことを後悔して、苦笑いするしかなかった。
「陽子ちゃん。貴博のことが、心配なんだね」
「そ、それは……」
「でも、貴博なら大丈夫。大丈夫って言い方も変だけど、貴博は仕事に生きられる男だから」
「仕事に生きられる男……ですか?」
「そりゃあ、俺も貴博の心の中を見たわけではないから、本当のところ胸の内は分からない。だけど、今の仕事に就く時、それなりの覚悟を持って望んでいるはずだから。そうでなきゃ、大学3年で進路決めて物凄く努力して会計士の資格取って、それでそれを生業にはしないって。その時の苦労と努力を考えたら、今此処で投げ出すような奴じゃないし、此処でドロップアウトするような奴でもない。会社の事情も詳しいことは知らないし、聞いたこともないし、話もしないけど、貴博を見ているとね。いかにして会社の利潤を上げるかってことに、いつも心血を注いでいるように見えるんだ。だから陽子ちゃんが言っているような、貴博に対する罵声や誹謗がもしあったとしても、貴博はそれを苦に思うことや落ち込むことはないと思うよ。勿論、言われて良い気分はしないだろうけど、そこに今構っている時間も労力ももったいないって思うのが貴博だから」
明良さん。
明良さんは、高橋さんのことを本当に良く分かっていて理解しているんだ。私なんかよりも、ずっと長い間一緒に居るのだからそれは当然なことなんだろうけれど。
「陽子ちゃんは、心配だったんだよね?」
「明良さん。私……」
「貴博なら大丈夫だから、そんなに心配しなくていいよ。それより、そんな風に心配してストレス貯めると体のためにもよくないからさ。もっと、大らかな気持ちでドーン! と構えていて大丈夫だから」
「明良さん……」
「貴博が、可哀想?」
「はい。取締役の人達に、寄ってたかって罵声を浴びせられたり誹謗されたりしていて」
「罵声に誹謗? また、穏やかじゃないね」
「そうなんです。高橋さんは、一生懸命会社のためを思ってやっているのに、それを頭から否定したりまだ入社して間がないのに……みたいな言われ方をして馬鹿にされたりしていて、それが1度じゃないらしいと他の人から聞いたので。もう私、それが許せなくて、悔しくて。それに、高橋さんが会議の前に、 『これから、俺は道化師に成り切る』 なんて言っていたので、それが何だか分からなくて」
「道化師に成り切る?」
「はい。そうなんです。でも、もしかしたら、それはそのバッシングを一斉に浴びることだったのかと思えてきてしまって。それだったら、尚更、分かっていてそこに飛び込んでいく高橋さんの気持ちを思うと悔しくて。でも、それとはまた違うのかな? とか、色々考えてしまって。だけど、高橋さんには面と向かって聞けないし……」
「陽子ちゃん……」
ハッ!
「す、すみません。ごめんなさい、明良さん。つい……なんか、その、愚痴みたいになっちゃって」
「いや、嬉しいよ」
エッ……。
「陽子ちゃんが話してくれて、寧ろ嬉しいよ」
嬉しい?
「だって、そうじゃない。貴博に言えないことを、俺に話してくれたんだからさ」
「明良さん……」
「貴博に勝った-! って、感じ。ハハハッ……」
「アハハッ……」
明良さん。
会社のことで、全く関係ない明良さんに愚痴をこぼして1人で捲し立ててしまったことを後悔して、苦笑いするしかなかった。
「陽子ちゃん。貴博のことが、心配なんだね」
「そ、それは……」
「でも、貴博なら大丈夫。大丈夫って言い方も変だけど、貴博は仕事に生きられる男だから」
「仕事に生きられる男……ですか?」
「そりゃあ、俺も貴博の心の中を見たわけではないから、本当のところ胸の内は分からない。だけど、今の仕事に就く時、それなりの覚悟を持って望んでいるはずだから。そうでなきゃ、大学3年で進路決めて物凄く努力して会計士の資格取って、それでそれを生業にはしないって。その時の苦労と努力を考えたら、今此処で投げ出すような奴じゃないし、此処でドロップアウトするような奴でもない。会社の事情も詳しいことは知らないし、聞いたこともないし、話もしないけど、貴博を見ているとね。いかにして会社の利潤を上げるかってことに、いつも心血を注いでいるように見えるんだ。だから陽子ちゃんが言っているような、貴博に対する罵声や誹謗がもしあったとしても、貴博はそれを苦に思うことや落ち込むことはないと思うよ。勿論、言われて良い気分はしないだろうけど、そこに今構っている時間も労力ももったいないって思うのが貴博だから」
明良さん。
明良さんは、高橋さんのことを本当に良く分かっていて理解しているんだ。私なんかよりも、ずっと長い間一緒に居るのだからそれは当然なことなんだろうけれど。
「陽子ちゃんは、心配だったんだよね?」
「明良さん。私……」
「貴博なら大丈夫だから、そんなに心配しなくていいよ。それより、そんな風に心配してストレス貯めると体のためにもよくないからさ。もっと、大らかな気持ちでドーン! と構えていて大丈夫だから」
「明良さん……」