新そよ風に乗って ⑥ 〜憧憬〜
「ちょっと、ちょっと。お2人さんさぁ。そんな理詰めっぽく来られても、困るんだけど」
「だって、そうだろう。適当と言われて、 『はい。そうですか』 って、誰でもすんなり引き下がってくれると思うなよ? 適当と言われて、1パック全て入れる人も中には居るかもしれないし、ほんの僅かな量しか入れない人だって居るかもしれない。その人の捉え方によって、だいぶニュアンスは違ってくると思うんだが」
「ダァー。相変わらず、貴ちゃん厳しいねー」
調理をしている手を止めずに、明良さんが苦笑いを浮かべている。
「そりゃ、さっきの件を根に持ってますからねぇ。高橋君は」
「仁まで、それを言う」
「いや。俺は、単純に料理のエグ味を出してあげてるだけ」
料理のエグ味?
「エグ味って、仁。何だ、それ? 陽子ちゃん。そこの棚の中に入ってるはずだから、オニオンコンソメスープの箱の中から、1袋だけ出してくれる?」
「はい」
「おい。人の家の食材の在処まで、よく覚えてるな」
「まぁね。で、仁君。エグ味って、何さ?」
「ん? 料理って、いつも思うんだけど、今の適当もそうだけど、適宜とか少々とかよく使われてるジャン。でも、これほど曖昧で無責任な表現ってないと思う。そのレシピを考案した人が、1番旨味のあるレシピ内容が分かっているわけなんだから、そもそもそのレシピ内容を正確に明記すべきであって、そこからそれをアレンジするかどうかは受け手の問題のはず。味覚は、人によって好みも違うだろうから。そこは、臨機応変応用すればいい。だけど、真っ新な状態で取り組もうとしている相手に対して、適量だとか適宜、ましてや最初からお好みでっていう表現は、それこそあまりにも適当過ぎる表現だと思う。受け手が好まない味付けや材料があったならば、その部分は除くだろうし極端なことを言えば端っからその料理は作らないし興味も湧かないだろう? レシピを考案するってことは、それだけその内容に自信を持っていると見なされるし、それが本やネット等の媒体に載せるということはそれなりに考案者も自信を持っていなければ載せないだろうから。アクが強いような苦味のある味付けになっても、それを旨いと言えるかと言ったら、それは誰でも美味しいとは感じられないエグ味。だから、それはやっぱり出してあげなきゃってこと」
< 28 / 311 >

この作品をシェア

pagetop