可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
クレドがチチのような怪しい笑顔で私の身体の上に股がり、私の服の首元を更にグッと下げてきた。



「ソソの心はルルにないからね。
“月のモノ”が来ていないルルのことを迎えに来るくらい好きではないから。
ルルに恋をしていたわけではないから。
ソソの心はとっくにルルの元にはない。」



クレドからそんなことを言われ、何故かこの胸が痛くなってきた。



「やめて・・・。」



「ルルの心は今でもこんなにソソの元に行こうとしているのにね。」



「やめて・・・。」



「ルルの父親も酷い父親だよね。
ルルの命をソソを守る為だけに使わせた。
でも、それはソソが強い男になって王宮に戻るその時まで。」



「やめてよ・・・。」



「ソソがいなくなった後、この命は誰のモノになったの?
この国の民のモノ?それとも自分自身のモノ?」



「クレド、やめて・・・。」



「5歳から10年間もソソの為だけに使った命。
可哀想なルル。」



クレドが私のことを“可哀想”と言い、私の顔にゆっくりと顔を下ろしてきた。



「もう夜12時を回り23歳になったルル。
その命に代えてでもソソを守り、子どもを作る機能がなくなった。
“月のモノ”が来ていれば、もしかしたらソソは迎えに来てくれていたかもね。
もしかしたら、ルルに恋する日が来ていたかもね。
家族としての愛ではなく、女の子として好きになって貰えていたかもね。」



“私はそんなモノを求めていない”



そう言葉に出したいのに、この口からは何も出てこない。
その代わり、この目からは少しだけ涙が流れてきた。



月を背中にしたクレドが私の服の首元をもっと下にずらしてきて、言った。



言ってきた。



「ソソはヒヒンソウの花を渡して求婚したんだってね。」



バカにしたような顔でクレドが笑い、私の顔のすく真上から私の胸元を見詰めている。



「求婚するのにヒヒンソウの花を渡すなんてやっぱり10歳だよね。
受け取らなくて正解だったよ。
ソソは結局ルルのことを迎えに来なかったんだから。
受け取らなかったんだよね?ヒヒンソウの花を。」



そう聞かれ・・・



私は首を横に振った。



「身体が動かなかったから受け取れなかったけど、私は受け取った・・・!!
私の心はちゃんとソソからの求婚を受け取ってた・・・!!」



叫びながら言った私に、何故かクレドは満足そうに笑いながら私の胸元を見詰め続けている。



「ヒヒンソウの花なんかを渡されて可哀想に。
俺ならもっと美しい花を渡すよ、ルル。
どんな花がいい?
ルルは何の花が好き?」



そう言われ・・・



そう聞かれ・・・



私はこの目から大量に涙が流れてくる中、答えた。



「私はヒヒンソウの花が1番好きだからいいの!!
私はヒヒンソウの花が好き・・・!!
1番大好き・・・!!」



そう叫び、目を閉じた。



そしたら、見えた。



“あの日”、泣きながらでも強く強く強く、どこまでも強い目で私を見詰め、求婚してくれたソソの顔が。



真っ白な霧の中、血塗れになりながら求婚してくれたソソの顔が。



受け取っていた。



身体は動かなかったけれど、私はこの心でソソからの求婚を受け取っていた。



見えなくなる視界の中で最後まで笑い続け、心ではソソの求婚を受け取っていた。



次の人生で私はソソからの求婚を受ける。



次の人生になってしまうけれど、私はソソからの求婚を必ず受ける。



“あの日”のことを初めてこんなに思い出し、そして気付いた。



気付いてしまった。



「次の人生だった・・・。」



「次の人生?」



泣きながら目を開けて呟いた私に、クレドが聞き返してきた。



「ソソが迎えに来てくれるのは次の人生だった・・・。
だからこの人生ではソソは迎えに来ない・・・。
迎えに来ないでいいんだった・・・。」



「次の人生ではソソから何の花を渡されたい?
次の人生での求婚ではもっと美しい花を渡してっていう文字を俺が教えてあげるよ。」



「いらない・・・そんなのいらない・・・。
私はヒヒンソウの花が大好きだから・・・。
次の人生でもヒヒンソウの花を渡して欲しい・・・。」



血塗れのソソの顔を思い出していたからか、クレドの顔がどんどん赤くなってきているように見える。



血のように赤くなってきたクレドは、満足そうに笑いながら私の胸元を見詰め続けている。



まるで血塗れになったかのようなクレドの顔に、“あの日”のソソの顔を重ねながら言う。



「私は“ヒヒンソウ”が好きなの・・・。
“ヒヒンソウ”が大好きなの・・・。」



どんな場所でも咲く強い花、ヒヒンソウが私は好きだった。



私は大好きだった。



そう強く強く強く、どこまでも強く思いながら言った瞬間・・・



クレドの顔が赤く光った。



さっきよりも強く、光った。



それには驚いていると、クレドはチチに似た怪しい笑顔で私のことを見詰めてきて・・・



そして・・・



「やっぱりな。
ダンドリーの奴、恋心とか女心とか全く分からねー奴だからな、昔から。」



そんなことを言ってから私の身体から退き、私のことを優しく起こしてくれた。



それからゆっくりと私の胸元に人差し指をのせてきて、それに釣られるように視線を移した。



そしたら・・・



「何、これ・・・?」



私の胸の真ん中から赤い小さな光りが出ている。
それに驚きながら見下ろし続けていると・・・



「ルル、お前は聖女だ。」



王都にいた時に夢物語として女の子達が話していた“聖女”、その聖女のことなのか、クレドがそんなことを言ってきた。
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