可哀想な皇太子殿下と没落ヒヒンソウ聖女は血の刻印で結ばれる
クレドは急いでチチの所へと戻っていき、私は呆然としたまま湖のほとりに座っていた。



「聖女って、あの聖女・・・?」



数百年に1度現れ、王族と結婚し国に安泰をもたらす聖女。
胸の真ん中に花の刻印が浮かび上がるのが聖女の証。



首元の服を下にずらすと、小さな赤い光りが確かに輝いてはいる。



でも・・・



「凄く小さいけど、何の花・・・?」



そう呟いた時、来た。



今日も来た。



「エリー。」



私が1人で湖にいる夜はエリーがよく現れる。
いつもはポポの傍にいるけれど、たまにこうして私の元にも来てくれる。



そして・・・



「苦しいよ・・・。」



私のことを強く抱き締めてくれる。
半分は人間の姿になっているとはいえ魔獣であるエリーの力は強い。



温かいその温もりを抱き締め返していると・・・



「ソソ、ルル、好き、大好き、愛している。」



単語を繋げて話すことが出きるようになっているエリーが今日もそう言ってくれる。



「それって、ソソが言ってくれてるんだよね?」



「うん。」



「私に“月のモノ”が来てれば迎えに来てくれてたのかな?」



この質問は難しいのかエリーは何も答えない。
エリーは簡単な会話しか出来ない。
だから側室の話をソソに伝えることが出来ていないのだと思う。
だから私が手紙を書こうとしていた。



だからクレドに文字を教えて貰おうとしていた。



さっきまで一緒にいたクレドのことを思い出しながら、私は指先で胸の真ん中に触れた。



「エリー。」



エリーに抱き締められながらエリーに言う。



「ソソに伝えて?
私、聖女になったよって。
ソソが国王になっても私がいれば国は安泰になるよって。」



聖女の刻印を見下ろしながら、伝える。



「“月のモノ”は来ていないから子作りは出来ないけど、国は安泰に出来る。
ソソがそれでも大丈夫なら、迎えに来てって。
王族であるソソと結婚出来る理由が出来たから、ソソがそれでも大丈夫なら・・・。」



温かいエリーのことを抱き締めながら言う。



「この人生でも、私のことを迎えに来て・・・。」



抱き締めたエリーからは不思議と血の匂いがした。
何故かいつも、抱き締めたエリーからは血の匂いがした。
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