婚約破棄寸前の不遇令嬢はスパイとなって隣国に行く〜いつのまにか王太子殿下に愛されていました〜

「フランソワ・ルーセル公爵令息様!?」

 それは王太子の側近の公爵令息だった。
 彼とは一度だけ王太子殿下との面会の要請をしにお会いしたことがあったけど、そのときとは打って変わってリラックスしていて砕けた雰囲気だ。

「久し振り、侯爵令嬢。いつもこいつが迷惑かけて悪いね」

「い、いえ……まぁ……そうですわね…………」

 わたしは思わず首肯した。これまでのレイからの仕打ちを思うと「そんなことないですわ」なんて上辺でも言えるわけがない。

 彼は声を出して笑う。

「だよな」

「おれも同意見だ」

 今度は右隣の男性が深く被っていたフードを上げた。
 こちらは初めて見る顔だ。茶色い髪に茶色い瞳、レイやルーセル公爵令息に比べると地味な印象だけど、精悍な顔立ちだ。
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